70 そして対決へ
デザートを考える為にアハトに帰ってきた。
甘味と言えば果実だが季節的には今は冬なので取れる者がない。
ラウメからドールはエリス大森林と言う魔力スポットの影響で冬でも雪が少ない。
だが、それが逆に作用しているのか、もともと果実があまりないのだ。
「うーん。デザートって言ってもねー」
「無難にシャップのクッキーとかになってしまうね」
(前世の知識を使うなら生クリームなんだろうけど……)
ケーキを綺麗に焼ける自信がない。
それよりも、エントの村の食堂の一軒が私の胸の中を占めていた。
「どうせなら、皆で楽しめるデザートにしたいな」
皆で楽しむ事を考えていると、頭に浮かぶのは日本のお祭りだ。
フラウ領の建物が和風だったせいもあって、余計にそう思えてしまう。
「いまアハトで話題になっているのは、この晶糖ですね」
「晶糖? 甘いのかしら?」
「はい。これを粉状にしたものが砂糖です」
「つまりザラメね! じゃあ、わたあめが作れるじゃない!」
私の中の日本の祭りのイメージとお菓子が繋がった。
あれならば、皆で楽しく食べられる。
「問題はどうやって作るかよね」
頭の中で前世で友達の見ていた動画を思い出す。
「温めて振り回すんじゃなかったかしら?」
「振り回す! お菓子なんだよね!」
「ぐふふ。ノチアの発想の自由さには驚かされるわね」
「違うの! 原理があって……」
私は記憶の中のわたあめの形を伝える。
虫食いだらけの知識だったが、アイラとルキラはすぐに科学的な意味に気が付いてどんどん形になっていく。
「うん。面白いよこれは!」
「ぐふふ。皆の驚愕の顔が目に浮かぶわね」
その後、何回か試してわたあめを作る事が成功した。
準備も整ったのでフラウ領に調理器具と材料を運び込む。
シリオスも準備が終わったようで、あとはその日を待つのみだ。
「さあ、今日はわらわを楽しませるために存分に腕を振るうがよい」
フラウが張り切ったようで、料理対決は向かい合って料理を作るステージまで作られていた。
観客にフラウ領で生活する多種多様な種族が集まっている。
「緊張しますね。でも負けませんよノチア嬢」
「シリオス様、始まる前に料理の出す順番の話をしておきたいのですが、よろしいですか?」
「何か変更したいのかい?」
「はい。私は最初に前妻として野菜の料理を考えていました。しかし、野菜の料理がメインになってしまったのです」
「ああ、それなら構わないよ。最後はデザートにして欲しいけどね」
「ありがとうございます」
提案を受け入れてくれた事に安堵する。
少し話しただけだが、シリオスは相当に自信があるようだった。
「それでも、フラウを喜ばせることに全力を出すだけね」
一品目が開始される。
私は火をおこし干物を焼いて行く。
シリオスの方を見ると、作るメニューはサンドイッチのようだ。
「危なかったわ。サンドイッチにしてたら丸被りだったわね」
「見慣れない調味料を使っているね」
アイラに言われて注目してみると、黄色い液体をパンに塗っている。
その卵と混ぜられたその液体は前世でよく見た物を連想させた。
「あれって……」
料理はフラウの前だけではなく、お互いの前にも相手の料理が並ぶ。
お互いで食べあう事で自分が勝ったか負けたかの判断もするのだ。
「やっぱり……これはマヨネーズね」
目の前のサンドイッチを見る。
フワフワの白いパンに厚く切られたスププ(ベーコン)とフザラ(レタス)とトゥーメル(トマト)まで挟まっている。
いわゆるBLTサンドだ。
そして、卵にマヨネーズを絡めたて挟んだ卵サンド。
「もう、絶対に美味いやつね」
「美味いのじゃ! 美味いのじゃ!」
さっそくフラウが食べたようで、語彙力のない感想を連発している。
シリオスは私の焼いたアマレレ(アジ)の開きを食べようとして苦戦していた。
「慣れてないと食べづらいよね。それじゃあ、私も」
目の前のサンドイッチを口に頬張る。
口の中にベーコンの油と塩気が広がりレタスがさっぱりとした瑞々しさが受け止める。
それと同時にトマトのさわやかな酸味と甘みが口内を満たして広がった。
柔らかなパンと肉や野菜のしっかりと歯ごたえが心地よく。
次の一口が待ちきれなくなる。
卵サンドは安定の美味しさだ。
黄身をマヨネーズがさらに濃厚にして、滑らかさを引き立たせる。
塩気とコクと旨味の調和。
美味しい物に慣れた現代人をも虜にする美味さのバランスそこに完成していた。
「これは、古文書の中にあったレシピじゃないか。さてはデュークから情報を得たのか」
アイラが卵サンドを食べながらそうつぶやいた。
なるほど、マヨネーズはフラウの建物の中にあったレシピか。
「ぐふふ。この勝負荒れるわね」
ルキアも動揺しながら呟いた。
その後ろでフラウが干物を齧って「美味いのじゃ!」と言っていた。




