7 キノコ、それはちょっと塩っぱくて
日が傾き、辺りが暗くなり始めると大篝火に日が灯る。
住民が見守る中、父様が壇上に上がって日頃の献身に労いの言葉を送る。
そのまま祭りに参加する父様の服装は、普段よりずっと質素だ。
続いて村長が手に持ったエールで乾杯の音頭を取ると、いよいよ収穫祭の始まりだ。
広場の中央の大篝火の近くで、住民達で結成された楽団が演奏を開始する。
父様が購入して、町の共通財産として保管されていた楽器だ。
音楽が鳴り出すと大篝火の周りでは、住民たちが輪になり歌ったり踊ったりしている。
私はこの空気感が好きだけど、いまは気持ちが少し沈んでしまっている。
チャーシュー欲しさに暴走した私は凄くお説教されてしまった。
父様と母様が本気で心配して怒ってくれたのが嬉しかったけど、その後には申し訳ない気持ちで一杯になった。
「ノチア嬢、どうしたんです? 楽しんでますか?」
「エドガー⋯⋯、ええ、楽しんでいるわ。ありがとう」
ラウメ領は裕福とは言えないけど、住民と領主との距離がとても近い。
すれ違って行く住民に次々に挨拶されて、私の気持ちが浮上する。
「もっと笑顔にならなくちゃ、今日はいつもより特別なんだから!」
「ああ、ノチアこんなところにいたのね」
「母様? ええ、スープが煮えるのを待っているのよ」
ちょうど気持ちを切り替えたところで母様が来た。
落ち込んでいた所を見せなくて良かったと私は安堵する。
母様の服装も祭りの中に溶け込むような姿で、簡素でありながら清楚だ。
そんな慎ましい服装なのに、金色のきれいな髪と気品のある仕草がなんだかアンバランスで少し笑ってしまう。
そんな私の笑顔に、母様も微笑み返してくれた。
母様と微笑みあった後、私は視線を大きな鍋に向ける。
火にかけはじめた事で、鍋の周りで住民が今か今かと列を作り始めていた。
シンバさんも楽しみなのか、列の一番前でお椀を持って待機している。
少しずつ鍋の温度が上がっていき、辺りに匂いが立ち込め始めると、それと同時に皆の熱気も上がっていく。
「どうしたの? ノチア」
「⋯⋯なんでもないわ、母様」
母様に指摘されて慌てて表情を取り繕う。
キノコのスープは実に良い匂いをさせていた。
日本人なら誰もが好きで、すごく馴染みのあるあの香りに辺りは包まれている。
並んでいる人たちの目が輝いているのがここからでもわかるほどだ。
だが、私の心には複雑な思いが渦巻いていた。
違う! そうじゃないと!
この匂いを日本人が嗅いだら求めるものは間違いなく米だろう。
次にモチモチのパンだ。
そう、私の鼻腔をくすぐったのはそんな濃厚なカレーの匂いだった。
「もしかして、ノチアは嫌いだったかしら?」
「母様?」
母様が少し困った顔をした。
母様の視線の先を追いかけると、そこにはお椀を持ったケイシーさんが立っていた。
ゆっくりとケイシーさんが近づいてきて、お椀の中が目に入ると、私の目に涙が溜まる。
「⋯⋯母様が作ってくれたの?」
「ケイシーさんに作り方を聞いてこっそりね。昨日は怒り過ぎちゃったから。でもね、私達がノチアを心配していることだけはわかってね」
具は入っていないけれど、茶褐色のスープにはうどんが入っていた。
一口飲むたびに涙が溢れる。
「おいしい⋯⋯すごくすごくおいしい」
私が泣きじゃくっていると、心配したのか父様も来た。
「うわぁ、どうしたんだいノチア」
「父様⋯⋯美味しくて美味しくて涙がとまらないの」
「あらあら、ノチアは泣き虫さんね。でも、喜んでもらえて嬉しいわ」
その後は、母様と父様と分け合って食べた。
そのカレーうどんは美味しくて、その幸せで私の胸はすぐに一杯になってしまった。
これがラーメンだったらもっと良かったのにと思うのは贅沢なのかな。
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