65 狐のもらい火
あれから数か月。
街道の建設は順調に進んでいた。
計画が本格的に決まったことで、街道で繋がる予定のウーファ領からも、助っ人を派遣されて、さらに街道の建設が両側から行われることで進行も早い。
しかも、ウーファ領から派遣されたのはノームの技術者だ。
土に精通いている彼らは、湿原に道を作ると言う難問を見事にクリアしていっているのだ。
「うわー。これは空を飛ぶことを可能にする魔道具じゃないか。仮説とはいえ、これは革命的だよ」
「ぐふふ。なんて高度な! 我が頭脳をもってしても半分も理解できないわ」
「ああー。味噌の作り方はどこー。数字ばっかりよー」
そして私たちは書物の解読に明け暮れていた。
と言うのも、フラウの屋敷の中の書物は、明らかに今の世に出ている知識よりも高度だったのだ。
しかし、フラウは屋敷に入れる人間は私達三人以外は許可しなかったため、屋敷に缶詰状態なのだ。
数日おきに帰ってはいるが、来る日も来る日も読めない本とにらめっこは辛い。
「ノチアー。昼飯が出来たぞ。今日のお昼はわらわ特製の狐うどんじゃ!」
この数か月の間、フラウもすっかり料理を習得した。
豆腐が作れるようになった後は、すぐに油揚げまで完成させて、気が付けば狐うどんを作っていた。
料理をするようになってからは、人の姿でいる時間も増え、食事もお箸を使って食べるようになっていた。
しかし、一つ問題が起きている。
「おおー麗しのフラウ姫。私にもあなたの愛情たっぷりのフラウうどんをいただけないだろうか?」
「……うせろ小童が」
「ああー、今日もなんて涼やかな声なんだ」
領主代理としてフラウの土地を視察に来たウーファ領主の長男のシリオスがフラウに一目ぼれしてしまったのだ。
幸いフラウは一切興味がない塩対応なのだが、シリオスは中々の強心臓で、そんな対応にも少しもヘコたれないのだ。
シリオスは少し太めの男性でたれ目が特徴だ。
醸し出す雰囲気は、貴族と言うより商人で、フラウの前では情けない態度だが、かなりなキレ者らしい。
問題はウーファには跡取りがシリオスしかいないことだ。
領主のミューヘ侯爵としては気が気ではないらしい。
「しつこい奴じゃな~。 ……そうじゃ! あれじゃ! わらわにはすでに将来を誓い合った相手がいるのじゃ」
「それは……いったいどこのどなたなのですか!」
「それは、そこにおるノチアじゃ」
「「「えええ!」」」
急な飛び火に私達三人の声がハモる。
「ノチアと決闘して勝ったらわらわに求婚することを受け入れてやろう」
「それは出来ません。公職家の嫡男が子爵家令嬢に決闘を申し込むなどどうかしています」
「よかった。そこはまともなんだ」
「なので、料理対決を申し込みます」
「なんでよ!」
「世間では、胃袋を掴んだものが勝つと言われています」
「貴様、わらわに何をするつもりじゃ! わらわの胃袋はわらわの物じゃ」
「わかっています!」
もう勝手にしてくれればいい。
私は投げやりな気持ちで二人を見た。




