63 魔王の持て成し
ラーメンを食べ終わり、しばらくすると冷静になったのか魔王は駄々をこね始めた。
「いやじゃ! いやじゃ! わらわは許可など出しとらんー」
「往生際が悪いわね。あんなに美味しそうにラーメン食べておいて」
「もっとじゃ! もっといろいろ食べたいのじゃー」
「ならば、定期的に献上する形を取れば良いんじゃないかな?」
「そうですね。道が完成した後も通行料として食品を献上する制度を入れれば、今以上にいろいろな物が食べられる事をお約束します」
「誠か! よし、ならば許可を出すとしよう。しかし、完成前にも持ってまいれ! 定期的にじゃぞ!」
アイラの提案にデュークが賛同して提案すると、魔王はあっさり受け入れた。
「よし、せっかくじゃ、わらわもそちらを持て成すとするかの」
魔王が手をパンと叩くと空中からポンポンと狐耳を生やした子供が降りてくる。
前髪が綺麗に眉の上で切りそろられていて、着ている服はピンクの和風メイド服のような格好だ。
「あるじ呼んだー?」
「あるじ来たー」
「うむ。その者らを案内せよ。宴じゃ」
「うたげ―。りょうかいー」
「こっちこっちー」
出てきた子たちに手を引かれて行くと、立派な古い和風の屋敷ような場所の前に着く。
しかし、屋敷の中にまでは入らず庭らしき場所に大きな皿を小さな子たちが並べ始めた。
魔王はすでに狐の姿に戻っていて、屋敷の入り口を背に寛いでいる。
皿に入っているのは山盛りに盛られた豆と芋だ。
しかし、これは……。
「なるほどね。料理をすると言う文化が無いみたいだね」
「ぐふふ。野性味が溢れているわね」
アイラやルキラが未調理の食材を前に困惑しているようだが、私の頭の中は別の事でいっぱいだった。
(これって大豆じゃない? 大豆だよね! 味を知りたいけど生で食べられるんだっけ?)
「どうした? わらわのもてなしは不服かえ?」
「とんでもない! ところでこれは何?」
「なんじゃ? 文句あるのかえ?」
「こ・れ・は・な・に!」
「……それは……豆じゃ。あと芋じゃ」
「大豆じゃないの? 名前は? 加工したものは無いの? 味噌とか」
「知らんのじゃ。そこらに生えているもんを食っているだけなのじゃ」
「……自分で確かめるしかないわね。ゴウオウお願い」
大豆は……確か炒れば食べられたはず。
私はラーメン用に持って来ていた鉄の鍋を使って炒る事にした。
すると、炒り始めてすぐにポンポンとはじけ始める。
「ええっ、ポップコーン? あっ、食べると大豆の味がする」
「おお? なんじゃそれは。うぬ、食感が面白いのじゃ。凄いのじゃ、これは美味しいのじゃ」
魔王がいつの間にか傍に来てポップコーンになった大豆を食べ始める。
そして、ひとしきり食べ終えた後に、私を見つめてきた魔王の眼は怪しく光っていた。
いつの間にか、尻尾が私を包み込むように体を覆い始める。
「ノチアから離れるじゃんよ!」
ゴウオウが強引に魔王との間に入ってきたことで、尻尾が離れ私が正気に戻る。
一瞬だが、自分が誰なのかもわからなくなっていた。
「ノチア大丈夫?」
「えっ、ええ、今のってなに?」
「邪魔するでない竜よ。わらわはその者を気に入ったのじゃ。その者にはここでわらわの為に料理とやらを一生作ってもらうのじゃ」
「そんなのワシが許すわけないじゃんよ……」
ゴウオウの圧力が跳ね上がり、魔王をにらみつけると空気が振動する。
魔王の周りにも青い炎が複数現れ初め、空が暗い雲に覆われていく。
「これが魔王と竜の力。なんと凄まじい」
「ノチア! ……ううっ、駄目だ。とてもじゃないが体が動かない」
「ぐふふっ、凄まじいプレッシャーね」
アイラもルキラも圧に当てられてしまっているようで苦しそうにしている。
このままでは、誰かに被害がでてしまいそうだ。
私はお腹に力を入れて前に出る。
「魔王! 力に任せて言うことを聞かせようとするのは止めなさい。力ずくで美味しいものを得ようとするなんて間違っているわ」
「ほう? この圧力の中、前に出るかえ? しかし、自然界など欲しいものを奪うのは普通じゃろう?」
「自分だけが笑顔になるなんて、そんなのは私の考える料理じゃないわ。もしこれ以上自分勝手に振舞うようななら、私は絶対に手を貸したりしないわ!」
私はゴウオウを撫でる。
それだけで体のこわばりが解けて、自分らしくいられる気がした。
息を吐いて魔王を見る。
私はここに争いに来たわけではないのだ。
「仕方ないのぅ。ノチアのその思いに免じて引き下がるとするわい」
魔王が力を消すと、一気に空気が軽くなる。
アイラ達が息を吐くのがわかった。
「それと、アイデアを実現するためには、アイラとルキラの協力も必要なの。二人に謝ってもらえる?」
「なっ、わらわに謝れじゃと?」
「謝ってもらえる?」
「はぁー。わかったのじゃ~。すまんかったのじゃ」
魔王は投げやりに謝って寝ころがった。
事態は収まったが、魔王という存在の怖さの一部を知って肝が冷える出来事だった。




