62 というわけでラーメンを振舞う
「と言うわけでラーメンを作りたいの!」
「「ノチア……」」
帰ってきてアイラとルキラに私の考えを伝えると、ものすごい残念な子を見る目をされてしまった。
「そもそも、その……魔王様は肉食なのではないのかい?」
「お芋ばかり食べてると言っていたから大丈夫だと思うわ」
「ぐふふ。さすがは真実を見抜く術を持っているようね。ただし、最強は奥の手を持つものよ」
「他の食材もあった方が良いってこと?」
ルキラの提案は一理ある。
ならば奥の手は、アレがいい。
「やっぱり狐にはお稲荷さんよね」
「お稲荷さん?」
「ええ、油揚げにお米を入れた……ああ!」
「どうしたのノチア?」
「お米も油揚げもない!」
ラウメもダイアもドールも主食はパンだ。
ラーメンばかりに気を取られていたが、お米なんて見た事が無い。
大豆もそうだ。
「でも、逆に大豆が見つけられれば、味噌も見つけられそう。ピンチはチャンスってことね」
幸い、交渉の為と言う大義名分がある。
デュークを使って、王都や他の場所を調べてもらのもありだ。
アハトに行けばこの大陸以外の品も探せるかもしれない。
「アイラ、ルキラ、私に協力してくれる?」
「いいよ。ノチアのその表情は好きさ。何か凄い事が起きる予感がするね」
「ぐふふ。我が力を欲するか。ならば持っていくといいわ」
方針が決まったことで、まずはラーメンだけでも作ってみよう。
交渉の前段階、小手調べとして振舞えばそれで交渉が決裂することは無いだろう。
その話をデュークにすると、すでに一つ貢物を用意したと言うので、一緒に行くことになる。
ゴウオウには、道具や材料を手に持って運んでもらう。
背中に三人乗せて手にの大量荷物を持つ姿に申し訳なくなる。
「こうなってくると、ラーメン屋台が欲しいわねー」
「ラーメン屋台?」
「そう、移動式のラーメンを作れる厨房かしら?」
私のイメージは、リアカーくらいのサイズの屋台を、ラッパを吹きながらおじさんが引っ張る姿だ。
それなら、ムーハス湿原以外の場所なら馬車で引いて行けそうだ。
しかし、質問されて初めてラーメン屋台について考えてみると、何があって何が無いのかがわからなかった。
「ラーメンを湯でる寸胴とコンロにスープもそれと同じ物でしょ? あと食材を入れておく冷蔵庫?……は、あるのかな? あとはー食器と入れる棚とー」
「ストップ! ずいぶん大規模だね。馬車をなんだい用意するつもりなのさ」
「えっ、そんなにはならないわよ? ……たぶん」
コンロが無くても炭を使えば火の維持はできると思う……?
無理なら魔道具が無いか探さないといけない。
どうやら屋台の野望はまだ遠いようだ。
この計画が落ち着いたら現実的かどうか、誰か設計に詳しい人にでも聞いてみよう。
そんな人、心当たり無いけど。
「あっ、霧が晴れてきたよ」
「ぐふふ。力の波動をヒシヒシと感じるわね」
『おお、来たようじゃな』
霧の中に入ると、すぐにあの魔王が話しかけてきた。
前に会った場所に行き、荷物を下ろしていると、ふわっとどこからともなく現れた。
「約束通りラーメンを作りに来たわ。まずは小手調べで味わってもらいましょう!」
「小手調べか。予防線とは小癪な。だが許そう。わらわは寛大なのじゃ」
「お待ちください。ラーメンは時間がかかりますので、こちらの食前酒をどうぞ」
デュークが持ってきたのはお酒だったようだ。
ナイスアシスト!
私にはわからないが、お酒の後のラーメンは特に美味しいと聞く。
これで勝負が決まったも同然だ。
しかし、私の予想は裏切られた。
「美味いのじゃ! 美味いにじゃ!」
予想よりはるかにこの魔王はちょろかった。
始まる前は「わらわの舌は厳しいぞ」などと言っていたのに、ひと舐めでこれである。
しかも、お酒に弱いようでべろんべろんだ。
もはや、魔王の威厳などない。
「では、道を通す件は了承してくださるのですね」
「お~~おぉ? だっ、ダメじゃぁ~。わらわは~まだ、満足していな~いのじゃぁ~」
その発言を聞いて私が動く。
「では、こちらのラーメンもお食べください」
念のためにスープの温度は下げている。
猫舌の可能性があったからだ。
しかし、魔王はなかなか食べようとしない。
「食べづらそうじゃな~。よし、待っておれ」
そういうと、魔王はその場でグルンと回転し、ボンと煙を出して人型になる。
裸の女性だ。
「ゴフッ!」
それを見て反射で鞘に入ったままの剣でデュークの視界を塞ごうとして振ったが、アイラとルキラも同じように動いていたためか、デュークが三方向から殴られた形になる。
デュークが顔と脇腹を押さえながら蹲る。
「ごっ、ごめんなさいデューク、大丈夫?」
「いえ、女性の肌を無遠慮に見てしまう所でしたので、感謝いたします」
「美味いのじゃ。熱いのじゃ。美味いのじゃ」
振り返ると魔王が裸のままラーメンを食べていた。
人型になったのに、結局犬食いしているし、やっぱり猫舌だった。
結局、魔王との交渉はちょろすぎる結果で幕を閉じたのだった。




