57 捺印式
捺印式は想像以上の規模だった。
王国の代理として抜擢されたのは、なんとこの国の宰相だったのだ。
竜の都合で開かれる式に合わせるべく、ドラゴン騎士に同乗するという強硬な手段で、多くの領地からこの式典を見届けるために文官がアハトの町に終結した。
その中には、この一大イベントに参加するため、自らドラゴンに乗って来た領主がいたほどだ。
この式典で、ドール領主のサーフ伯爵は開催地として主導権を持ち、王国に恩を売ることにも成功している。
隣の領地なのに招待客でしかないガストルは、表面上は笑顔で接していたが、かなり歯噛みをしたに違いない。
捺印の舞台に続く赤い絨毯の両脇に、ドラゴンと騎士が勢ぞろいしている様は壮観で、ゴウオウがまるでドラゴンを統べる王になったようだった。
宰相の隣には、デュークが主唱者として控えていて、立会人は司教が務めている。
「この度、捺印の儀を受けていただき、竜殿のは感謝する」
「竜に殿はいらないよん。さっさと話を進めるじゃん」
「はっ、では……」
読み上げられた条件は、完全にゴウオウに有利なものだった。
まずゴウオウに自由に空を航行する権利を与え、その上で初めて訪れる領に対しては、交流を持つ者を代理にして申請を出すように《《心がける》》事とした。
そして、もし害意を打つけられたり、被害を被った場合でも、《《出来るだけ》》人側の法と裁量に任せる事を約束するものだ。
「なるほど、王国としては、ゴウオウを縛るつもりは元々なく、人と言葉を交わし意見を書面状で同意させる事自体で勝利としたようだね」
アイラが書面の内容を聞いてそんな感想を漏らした。
後から聞いた話だが、その背景としては、すでにゴウオウが王国のいたるところで昔から目撃されている事。
それでいて今までに被害が出ていないこと無い事。
さらに、ゴウオウが純白であることが理由だったらしい。
……ここでも色が出てくることに、私は少しだけモヤっとした。
「ぐふふ。デューク様は強大な力に翻弄されることになるわね」
「ゴウオウ様のパイプ役として、地位が跳ね上がりそうだね」
「アイラもルキラもなぜそんな悪い顔をしてるの? 面白がってない?」
捺印式が終わり、ゴウオウが空に飛び立つと拍手が巻き起こる。
空の脅威に唯一対抗できるドラゴン騎士の中でも、竜との捺印を成功させたデュークは英雄のような扱いだった。
私はそんなデュークを見ながら、自分ではなくて心底ホッとしていた。
式が無事に終わった後も、数日間は捺印式の興奮は続き、アハトの町は大いに沸いていた。
アイラとルキラは、この興奮を商機として見事に利用し、オンリー商会に主導権を持たせ、グレンツェ商会の発言力もそいでいた。
私の親友たちが優秀過ぎて辛い。
ちょっと対抗意識を持った私は、ガストルの通行税に対抗すべく一つの作戦を立てた。
それは、ムーファス湿原街道化計画だ。




