5 キノコとそれ以外と
シンバさんが同行することを条件に、私は渋る父様をなんとか説得した。
念のため、私も腰には剣をさしている。
私が参加するということで、今日は山の深くには入らずに近場で採取することになった。
山の浅い場所での採取なので、危険度が低いことから参加者には小さい子共たちも混ざっていて、ワイワイと和やかな雰囲気が漂っている。
しかし、そこまでして参加したキノコ狩りだが、今の私は借りてきた猫と同じだ。
「駄目だわ。全く見分けがつかない」
目の前の食べられるキノコと毒キノコを見比べて私は途方にくれる。
まったく見分けがつかないのだ。
食材の知識以前に、私にはキノコに対する審美眼が無かった。
だからこそ、キノコの危険性と悪質性を知っている私は、採取に慎重になって踏み出せない。
あいつらは、たとえ家の中の押し入れに生えてきた奴でも、ちゃんと毒を持っている。
毒の前では空腹かどうかは関係ない。
隣人のような顔でお腹を壊しに来るあいつらは、とても危ないのだ。
「おお! こんなところにスルリ茸とは、向こうにはエキキ茸まで、ラウメ領がここまでキノコが豊富だったとは思いませんでした」
シンバさんは私と子供達の護衛をしながらも、しっかりキノコを採取していた。
冒険者時代は色々な場所を旅しては、様々なキノコを取っては食べていたという。
キノコの目利きも相当なようで『あれは?』『これは?』と今も住民たちに囲まれて判断を求められている。
「シンバさん、これは食べられますか?」
「それは毒は無いですが、あまり美味しくないうえに、中に虫が入っているものが多く、オススメはできませんね。その脇にあるルッリ茸は見た目は悪いですが美味しいですよ」
「これは? これは?」
「ウツベ茸ですか。それは単体では美味しいのですが、食べ合わせによってはとても危険ですから、今回はやめておきましょう」
頼りになるシンバさんがキノコをどんどんと選別していく。
私はそんな長閑な様子を眺めているしかない。
そこにいい笑顔でエドガーが話しかけてきた。
「浅い場所なので少し心配していましたが、今年はかなり豊作のようで、良いキノコが沢山取れていますなー」
「そうなの? 少し前まで長雨が続いていたからかしら?」
雨の日にジメジメしていると、すぐに生えてきたあの姿に苦笑いすると、森の奥がなにやら騒がしいことに気がつく。
私はシンバさんに目配せして、エドガーと共に向かう。
「どうかしたの?」
「それが、エヴァがグレート・メイの糞が落ちているのを見つけたって言うんだ」
「グレート・メイ?」
聞き慣れない名前に、シンバさんに尋ねる。
「大きな角と苔むした長い毛が特徴のイノ羊です。普段はもっと山深くに住んでいるのですが、何かの理由で降りてきてしまったようですね」
「危険なの?」
「気性が荒い訳ではありませんが、プライドは高く闘争心もなかなかのものです。普通は刺激はしない方がいいですね」
「わかったわ。エドガー、採取は中止して子供達と避難して」
「おっ、おう。ってお嬢、どこ行く気ですか?」
奥に歩いていこうとした私をエドガーが止める。
私はエドガーの方を向かずに、シンバさんに静かに尋ねた。
「それで⋯⋯味は?」
私はシンバさんに強い視線を送っる。
シンバさんがそれを受けて何も言わずに良い笑顔で笑った。
「⋯⋯美味しいってことね!」
我が領地にはまだ豚がいない。
豚は放し飼いにしてしまうと魔物化するリスクがあるからだ。
そして、豚を飼育し続けるだけの飼料を作る余裕はまだ領地には無い。
つまり、これはチャーシューを作る絶好の機会なのだ。
「私はチャーシューが作りたい! そして、チャーシューを食べて欲しいの!」
「その意気や良しですノチア嬢。私もここで逃げては元A級の名が廃ります」
「危険ですよ。お嬢!」
私の思いにシンバさんが同調してくれた。
もう、迷う必要はない。
再度、私を止めようとするエドガーに私は宣言する。
「大丈夫、私には〝剣聖〟の加護があるの! 料理人が食材に負けるはずないわ!」
宣言とともに、奥からドーンっという音と土煙が上がった。
私は剣を抜き、迷うこと無く走り出す。
シンバさんに足元の悪いところでの戦闘も十分に訓練も受けている。
「さあ、待ってなさいチャーシュー!」
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