46 麺とルキラの願い
この世界で私が作ったうどん以外で、初めて見る麺だ。
これに興奮せずにいることなんて出来るはずない。
私は逃げようとするルキラの掴む手に力が入る。
「ぐふふ。我が至宝に魅入られたようね? そうこれこそが……って近いですわ! ノチア様!」
「あなたば作ったの? 凄いね! 材料はなに? どんな味なの? 食感は? 食べてもいいかしら?」
「えと、これは私用で……お客様には……本当に食べたいんですの?」
「食べたい!」
「ぐふふ。ならば……あっ、それは私の食べかけで……」
ズズッ!
私はルキラの食べたいかの問いかけを両省と受け取って、遠慮なく麺を啜った。
……そして、盛大にむせてしまった。
「ぶふっ……ゴホ……ケホケホケホ!」
「だっ、大丈夫ですかノチア様!」
「ゴホッ……ごめんな……さい……だい……じょうぶ」
(酢? がキツ過ぎる。味付け的には心太ね。予想外過ぎてむせてしまったわ)
ルキラがお茶を出してくれたので、ゆっくり飲んで落ち着く。
そして、もう一度ゆっくりと味わい直した。
ブツッと切れるコシとは違う歯ごたえ、そしてこの喉越し。
味は酢だったが、食感はかなりラーメンの麺に近い。
「凄いわ! 一体どうやってこの食感を……ああ、凄い!」
「ぐふふ。そうでしょう。それは我が深淵なる研究の果てに生み出されし……⁉ あっ、あの食べちゃってから言うのもあれですけど……これはその……スライムの麺なのですが……」
「スライム麺! それがこの食感の正体なの?」
「あっ、いえ、それはスライムを美味しく食べるために研究して……はっ! ぐふふ。そうよ。時間を凍結させる悪魔の所業のなせるワザなの」
ルキラの研究の言葉を聞いて私は黙ってしまった。
確かにスライム麺はルキラが一生懸命に開発したものだ。
気軽にその成果を聞き出そうなどと、図々しいにも程がある。
かといって諦めることは出来ない。
何とか交渉しなければと頭を捻っていると、急に黙り込んだ私の意図を勘違いしたのかルキラが慌てる。
「あの……あ、悪魔の所業って言うのは、あくまで比喩表現で……じゃなくて、悪魔じゃなくて…………」
「ルキラ! 私、ルキラがレシピを教えてもいいと思えるように努力するわ。何でもする! して欲しい事なんでも言ってね?」
「なんでも? そんな、いきなり言われても……そうね!」
ルキラが思いついたように姿勢を正し、真っすぐにこちらを見てた。
その瞳は何かを決意したようだ。
「私、次の舞踏会に出たいの。ノチア、私と一緒に出てくれる?」
「舞踏会に? ヒューリからは出たくないと聞いていましたわ。どうして?」
身の回りの事すらもメイドに任せられないのに、他人だらけの舞踏会に出たいと言った事に驚く。
私はルキラの真意が別にある気がして理由を尋ねる。
「……その舞踏会で婚約しようと思うの。お父様とお母様に心配をかけないためにも、立派に振舞いたいの……」
「……その方はどんな方か聞いてもよろしいですか?」
祝うべき事を口にしたのに、ルキラの目にはどこか悲壮感があった。
それを感じ取った私は、一歩踏み間でルキラに尋ねた。
一瞬迷った表情をしたが、私の目を見たルキラが、一つの釣書を差し出した。
開いて見えた姿絵に描かれていたのは、七十近い老人だった。




