39 ダイア秘密の脱出作戦
「アイラ、私どうしたらいいの」
「まったく、ノチアらしいわね」
頭を抱える私にアイラがおバカな子を見るような目を向けてきた。
伯爵に挨拶を済ませた私は、3日間をダイアで過ごすことになったのだが、ゴウオウに乗って帰るためには、街を出なければならない事を、私は完全に失念していた。
夕食を食べた後に街の外に出るなんて許されるわけがないので、このままではラウメに帰れないのだ。
「どうしよう。ルーナとソラーレに嘘つき扱いされちゃうよー」
「仕方がない。ボクがノチアをダイアの視察って名目で連れ出すよ」
「アイラ、やっぱり持つべきものは親友ね」
「⋯⋯ただし、これは貸しだからね。ボクも君と一緒にラウメに行きたいけど、何かあったときの為にこっちに残るしかないんだから」
「わかったわ。アイラの頼みなら何だってするわ」
「なっ、何でもなんてそんな⋯⋯ふふっ」
(一日はしょうがないとして、代わりに何かお土産でも買っていかないとね)
丼はすでにプレゼントしている。
私は何か良いものがないか考えてみた。
「アイラはプレゼントするなら何が良いと思う?」
「ふぇっ? ノチア⋯⋯が選んでくれるなら、何だって良いですわ。おそろいの宝石とかどうかしら?」
「うーん。さすがにお土産で宝石は贅沢じゃないかな?」
「お土産? あっ、ああ、そうね。うちならやはり陶器ですけれど⋯⋯ラウメにはダグがいますものね。⋯⋯いま令嬢の間で流行っているのは写本ですけれど、お姉さまが婚約したとは言え、まだウチの領にはそれほど入って来ていませんわね。⋯⋯ドールまで行けば木材を使った工芸品もありますけれど⋯⋯」
珍しくアイラの歯切れが悪い。
サリア様の婚約者であるソラチ様の領地トービは書物に関して盛んな領だ。
王都の方の令嬢の間ではトービの写本を贈り合う事が流行っているらしい。
アイラは色々と提案してくれたが、私の中ではやはりダイア領と言えば、ムーハス湿原の良質な粘土から作る陶芸だ。
「ううん。ダグは優れた職人だけど、やっぱりダイアの職人に及ばない所はたくさんあるわ。そうね、陶器にするわ。アイラ、一緒に選んでくれる?」
「ええ! もちろん⋯⋯だよ!」
次の日、アイラの提案通りに視察の名目で街を出た後、お土産を買う事も考えて、ムーハス湿原のそばにある村に向かう事にした。
村に近づくと、遠くからでも煙突の煙が見える。
薪をよく使うのか、ダイアの街から私達と一緒に薪を乗せた馬車が何台も向かっていて、道中は賑やかだった。
村で買ったお土産は動物の形をした置物だ。
ついでにアイラのお願いで、二人で陶芸体験をしてお揃いのコップを作った。
思った以上にアイラが喜んでくれたので、私も完成が楽しみだ。
「明日の昼には街でポーション作りの講演会があるの。それまでには街に戻らないといけないから、早めに戻ってきてねノチア」
「遅れないようにするわ」
アイラはダイア領でもポーション作りを始めている。
エリス大森林が近いダイアも、ポーションの制作にはうってつけの土地なので、職人を誘致して、アイラの指導のもとで職人を育てているらしい。
いまのアイラはすっかり重要人物だ。
「そう言えば、アイラにも婚約の申し込みは来ている?」
「止めてノチア、思い出したくないわ」
アイラが頭痛でも耐えるように頭を押さえた。
やはり私と同じでかなり来ているようだ。
「ノチアも負けちゃ駄目よ。二人でこの局面を乗り切りましょう」
「そうね。結婚なんて後十年はしないわ」
「その意気よ!」
そんなこんなで、アイラと独身同盟を結んだ後は、そのまま村から北上して、ムーファス湿原に沿って続く森を利用してゴウオウを呼んだ。
ゴウオウはすぐに私の声に答えてくれて、駆けつけた。
それを見てアイラが感嘆の息を漏らす。
「本当にノチアには驚かされるわ。英雄の次は竜騎士様ね」
「アイラ、何度も言うけど、私の夢はラーメン職人だからね?」
「なんだか勿体ないけど⋯⋯ふふっ、そういうところもノチアらしくて好きよ」
「私もアイラが大好きよ。それじゃあ、テスラさん達の事はお願いね」
「ええ、いってらっしゃい」
ゴウオウに跨り空へと舞い上がる。
アイラに手を振って見送られた後、ラウメの方に向けて飛ぶ。
「ラウメに戻って一日したら、またダイアに来ないとか。忙しいけどやり切って見せるわ」
ゴウオウの上で気合を入れると、決意もあらたに私はラウメへと駆けた。




