38 二度目のダイア領
馬車は街道を進んでいき、街を囲む外壁沿いを通って、兵士の守る西側の門から中に入る。
私は馬車の窓から、二年ぶりのダイアの街を眺めて懐かしさを感じていた。
自領とは違って、前回はそこまで歩き回ることが出来なかったが、それなりな期間を過ごした。
ラウメより歴史が古い街並は、石造りの一軒家の建物が多く並び。
陶芸が盛んな街だけあって、道にも石垣にも陶芸の欠片がところどころに使われている。
馬車はどんどんと進んでいき、領主の館が見えてくる。
「相変わらず大きいな~」
私の館も民よりは大きい。
それでもダイアの館はその三倍以上の大きさだ。
コの字型の外観にはツタが這っていて、この雰囲気が私は好きだ。
着いてからは、まずは伯爵に到着の旨を伝えて客室で待つ。
新人メイドだったミアも、今ではすっかり一人前で父からの手紙を渡す仕草に緊張はない。
ただ、メイド長のロッテアさんはいまだに苦手のようで、入口で出迎えられた時には、必要以上に背筋が伸びていた。
「ノチア! ようこそいらっしゃいましたわ!」
久しぶりのフリルのふんだんに盛られたドレス姿のアイラを見て私は安心する。
良かった。ダイア領ではちゃんと令嬢しているようだ。
「お久しぶりです。アイラ、元気にしていらっしゃったかしら?」
私も負けじと令嬢言葉に切り替える。
しかし、それを聞いたアイラが頬を膨らませる。
「嫌ですわノチア。二人の時はそんな言葉遣いは辞めてくださいまし」
「ウチもいるっすけど」
「テスラ、君にはさんざん本当のボクを見せてきたじゃないか」
「ボクじゃないでしょアイラ?」
「ひゃっ、サリア姉さま!」
アイラが慌てて振り返ると、扉の前にサリア様が立っていた。
隣には、男性が立っている。
「ノチアちゃん。お久しぶり、良くいらしてくだったわ。紹介します。こちらは⋯⋯」
「お初にお目にかかります。私はアイラ様の婚約者のソラチと申します」
サリアさんに紹介されて、一歩前に出でソラチ様が紳士の礼をとる。
緑がかった髪と同じ色のジャケットが印象的で、少し儚げな印象を受ける。
アイラがこっそり教えてくれたが、ソラチ様はトービ伯爵の三男だそうだ。
トービ領はグロス湖を挟んだ隣の領地だ。
広大なグロス湖に接している領地は多く、交易も盛んな領だと言う。
ダイアもグロス湖の間にムーファス湿原さえなければ、交易に参加出来だろう。
しばらくアイラ達と話をしていると湯浴みが用意された。
本来ならば長旅なので、体を清めたいと用意してくれたようだ。
本当に久しぶりの湯船だ。
前世でもあまり浸かることは無かったのに、いざ入ると蕩けるような気持ちよさを感じるのは、日本人のDNAにでも刻まれていたのだろうか。
「ノチア、あまり匂わないんだね」
「アイラ、なぜ一緒に入っているのかしら」
「良いじゃないか久しぶりの再開を堪能したいんだよ」
「口調をまた注意されましてよ?」
「ここには姉さまはおりませんわ」
私が口調を注意すると、居ないと言いながらも戻るあたり、かなり怒られたのかもしれない。
アイラはラウメにちょこちょこ顔を出していたので、そこまで久しぶりじゃないはずなのに、安心してしまうのは何故だろう。
湯船から上がると、ドレスルームでサリア様とメリナ様に着せ替え人形にされる。
(なんだろう。親戚の家に行くってこんな感じなのかな?)
二人に揉みくちゃにされながら、前世でも今世でも縁がない親戚の家のような親近感に私の顔がニヤけてしまった。




