34 天使の庭園にて
「うー、面倒くさいな~。まだ結婚なんて考えられないのに」
二年が経ち十歳になった私はまたしても問題を抱えていた。
私は館のテラスにある椅子に座りながら、大量に届いている釣書の前で唸る。
岩塩と新ポーションの材料になるアージュ豆の栽培の成功によって、ラウメ領は二年経った今も発展し続けている。
そして、貴族の中での発言力も上がった事で、ラウメ領とつながりを持ちたい貴族から、私に対しての婚約話が殺到しているなだ。
「ねぇしゃま~。ねぇしゃま~」
「ルーナ坊お嬢様、そのように走っては転んでしまうっすよー」
私のところに走って来くるルーナの後ろで、ソラーレを抱えたテスラさんが注意しながら追いかけてくる。
すると、忠告通りにルーナが転びそうになる。
「ふぁーー」
「危ない! ふふっ、大丈夫?」
転びそうになったルーナを私が抱きとめると、甘えたように頭をグリグリと押し付けてくる。
弟妹ももう二歳になる。
あどけない口調と不器用に歩く姿は愛らしさを煮詰めたようだ。
父様ゆずりの灰色のストレートの髪を優しく私が撫でると、勝ち気な瞳を歪ませて妹のルーナが笑う。
「ねえしゃまスキー」
「ソラもー。ソラもー」
護衛をお願いしている内に、すっかり我が家のメイドになってしまったテスラが弟のソラーレを下ろすと、キラキラした笑顔で私のところに来る。
母様ゆずりの金色の癖っ毛をフワフワと揺らしながら走ってきたソラーレを私から抱きしめる。
「ふふふ、二人とも甘えん坊なんだから」
「そういうノチアっちも顔がデレデレっすよ」
テスラさんに指摘されるが、二年経っても二人の可愛さは衰えるどころか天元突破しているのだから仕方ない。
「メーメメー」
「めーちゃだー。めーちゃー」
メンマが騒ぎを嗅ぎつけて来たようだ。
最初はサッカーボールくらいだったメンマの大きさも、今はテスラさんの腰くらいまである。
フワフワマルマルな姿は変らないので、弟妹のお気に入りだ。
さっそくお転婆のルーナがメンマによじ登り始めて、ソラーレも続く。
「本当に可愛いっすねー。眼福の極みっす。って、また婚約の話っすか?」
「私が二人から離れるわけないのにね」
「婚約はそうっすけど、ドール領には行かないとっすよね?」
「うっ、わかっているわよ」
ドール領への訪問は、もともと私が麺を食べるという令嬢に会いたくてこちらから言い出したことだ。
弟妹が生まれたことで伸ばし伸ばしになってしまったが、アージュ豆でも協力してもらっているので、両領地の友好のためにもいい加減に行かなければならない。
「あと十年は二人の成長を見ていたいのにー」
「この二年間のノチアっちを見ていると笑えないっすね」
弟妹が生まれたことでアイラも領地に帰っている。
といっても、ポーションの開発がダイアとラウメと王家の共同開発になっているので、何度もラウメに来てはいるが。
「いっその事、ルーナとソラーレもドール領に連れて行っちゃおうかしら」
「絶対ダメっすからね?」
「⋯⋯半分冗談に決まってるじゃない?」
「半分本気じゃないっすか!」
ドール領はダイア領のさらに下にある。
向かうだけでも片道一週間の長い旅路だ。
「私がいない内に二人が大人になったらどうするのよー」
ラーメンで世界中を満たす夢はまだ捨てたわけではない。
だが、果たして私は天使たちの手を振り払ってドール領に行けるのだろうか。
婚約なんてどうでも比べ物にならないくらいに、この悩みは深刻だ。




