33 渡されたバトン
「デッカー! ⋯⋯ああ~」
私がデッカの工房に着くと、先ほどと同じ光景が繰り広げられていた。
男に追いすがられて、うんざりした顔をデッカが私に向ける。
「⋯⋯なんとかしてくれ」
「はぁーーーー」
私は大きなため息をついて男を引き剥がすとゴウダン剣を抜いた。
「ひいーーーー」
「これを持って!」
「えっ?」
困惑する男に私はゴウダン剣を渡して、近くに落ちている手頃な枝を拾って構えた。
「打ってきなさい。私が稽古をつけてあげる」
「よっ、よし! やってやろぞ」
一瞬怯んだ男だが、八才の渡しに棒で挑発されたのが効いたのか、剣を構えた。
男は上段に構えると、そのまま振り下ろしてくる。
遅い上に重心はバラバラで軌道もぶれている。
完全な素人だ。
私は枝が切れないように刃の側面を打って弾く。
男は剣に振り回される様に回転して尻もちをついた。
へっぴり腰でダメダメだが、転んでも最後まで剣を離さなかった事は褒めても良いかもしれない。
「そんな体たらくで剣だけ良いものを揃えても、自分の薄っぺらさが際立つだけよ。剣を売って欲しいなら、まずは体と心を鍛えなさい」
八歳児に良いようにされたのが効いたのか、男は項垂れて動かない。
そして、男に言った言葉はまるまる私に跳ね返った。
(道具のせいにしてはダメね。まずは私自身が頑張らなきゃ)
料理が下手なことを道具でカバーしようとしていた私は心の中で反省する。
「あなたはデッカの所で体を鍛えることから始めなさい。剣を手に入れるのはその後よ。私もきっちり剣を教えてあなたが聖剣にふさわしい人間にしてあげるわ」
「おっ、おーい。ワシがやんの?」
私は気持ちをあらたに食材に立ち向かうべく館に戻る。
館に戻るとすぐに私は異変に気づいた。
少し増えた使用人がバタバタと走り回っているのだ。
私に気づいたミアがすぐに駆けつけてくる。
「大変ですお嬢様。うま⋯⋯うま⋯⋯」
「落ち着いてミア、ラウメに馬はいないわ」
「マリア様が生まれそうなんです!」
「母様が生まれる? ⋯⋯生まれるの!」
あわあわするミアを置いて私は母様のところに向かう。
弟たちがついに生まれるのだ。
飛び跳ねてしまいそうな嬉しい気持ちと、ちゃんと生まれてくるか心配な気持ちが同時に溢れて上手く走れない。
フラフラと廊下を進むと扉の前に父様がいた。
父様も落ち着き無く歩き回っている。
「父様! うま⋯⋯うま⋯⋯」
「ノチア待っていたんだよ! 今は入れないから父さんとこっちだ」
手を掴まれて私は奥の部屋に連れて行かれる。
何度も立ち上がってフラフラ行こうとする私を、父様が止める。
私を止めるために父様は外で待っていてくれたようだ。
廊下ではお湯を持ったメイド達がせわしなく行き来している。
どれくらい時間が立ったのか、扉を開けてケイシーさんが入ってきた。
普段感情の乏しいケイシーさんだが、目に涙を浮かべ嬉しそうに声を出す。
「無事出産が終わりました。短い時間ですがお顔をご覧になってください」
またも走り出そうとした私を父様が止めるが、父様の歩く速度も早い。
扉を開けて入ると、少しヤツレた母様が布に包まれた二人の赤ちゃんを抱いている。
「マリア⋯⋯ありがとう」
父様が跪くとメイドが赤ちゃんを抱き上げる。
父様は母様の手を額に当てて祈るように感謝を捧げた。
「旦那様、顔をご覧ください」
ケイシーさんともう一人のメイドが抱え上げた赤ちゃんの顔が見えるようにシてくれた。
その顔を見た私は完全に涙腺が崩壊した。
家族が増える。
こんなに幸せな事があるのだろうか。
なんだか、私は幸せすぎて胸が張り裂けそうだった。
その日の夜、前世の母さんの夢を見た。
母さんは泣き続ける私を優しく撫でると、背中を押す。
押された先には赤ちゃんを抱く、父様と母様がいた。
『さぁ、行きなさい。幸せになるのよ』
「うん。⋯⋯絶対、絶対に皆を幸せにする。約束するよ」
見つめ返した私に、母さんは優しげな眼差しで笑った。
目が覚めた私は、しばらく涙を流していた。
「全力で幸せになるから、見守っていてね。母さん」
これで三章は終了です。
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