32 念願の中華包丁
待ちに待った一週間が経った。
デッカから完成したという報告は入っていないが、ここ一週間は邪魔をしないように工房に行くことも控えていた。
結果を確認せずにはいられない。
「頼む! 金ならいくらでも出す。だからその聖剣を俺に売ってくれ!」
「じゃから、これは聖剣でも何でも無い調理道具じゃと言っとろうが!」
町から工房に続く道の手前で、デッカが誰かに追いすがられているのが見えた。
「デッカ、中華包丁が出来てるか確認しにきたんだけど⋯⋯」
「おお、ノチアの嬢ちゃん。すまんがこいつをどうにかしてくれ、邪魔でかなわん」
「いいえ。その聖剣を売ってくれるまではテコでも動きませんよ」
デッカが鬱陶しいとばかり男の頭を押すが、必死に縋り付いて離れようとしない。
男は高そうな鎧姿だが、体つきは文官のようで筋肉がついていない。
鎧も汚れどころか、さっき買って来たかと思われるほど真新しいままだ。
「ワタシにはその聖剣が必要なのです。その剣を持って行けばワタシは堂々とミアに結婚を申し込めるのです」
「知るか。この鬱陶しいボケナスが!」
ついに怒りでデッカが拳を男に落とす。
ドワーフの怪力から繰り出される拳骨がゴンっと言うしっかりした音を響かせると、男が昏倒する。
「えっと、どうするのコレ?」
「知らん! こんな奴は放置じゃ放置。ほれ、嬢ちゃんに頼まれてた包丁じゃ受け取れ」
「わあ、ありがとう」
デッカから中華包丁を受け取った私は、さっそく鞘から抜いて刃を眺める。
ゴウオウの鱗を使っているためか、刃の部分は白くそれでいて複雑な輝きを纏っていた。
「なんだか、力が湧いてくるような不思議な感覚がする」
「当然じゃ! ワシの〝鍛冶師〟の加護を十全に発揮して打ったんじゃ、竜の素材の力を余すこと無く引き出しておる。この男が聖剣と言っておるのもあながち間違っとらんわ。わーはっはっ」
デッカが満足そうに腕を組んで高笑いする。
手に持って伝わってくる雰囲気はデッカの自信を裏付ける迫力があった。
「残り半分の鱗で剣を打つのが楽しみじゃ。剣の方も楽しみに待っとれ」
それだけ言うとデッカは工房に帰っていった。
私も早く包丁を持ち帰って試し切りがしたい。
倒れた男を見回り中の騎士にまかせて、私は急いで館に帰った。
「ケイシーさん、見て! 私のマイ包丁よ」
「凄いですねお嬢様、では岩盤コボスの実を斬ってください。もちろん空中でですよ」
「わかったわ。まかせて!」
私が実を空中に投げるとそのまま両断する。
空中で見事に半分になった実は、ケイシーさんがキャッチして切断面を確認する。
「ちゃんと形をとどめてますね。次は堅堅木をお願いします」
「うん。⋯⋯ってそれは薪じゃない」
私は文句を言いながらも反射で、次に投げられた堅堅木を四等分する。
「最後にバージカをお願いします」
「今度こそ食材ね。はー! って、なんでー?」
しかし、何故かバージカは消滅してしまった。
その後も、食材を切ろうとするがことごとく消滅していく。
「騙された! 絶対失敗作だ! 私抗議に行ってくる」
すぐにデッカの工房に私は戻った。




