3 たくさんの足りないもの
「やあー! はっ! えい!」
「まだまだですよ。ノチア嬢」
シルバさんが私の剣を軽くいなす。
体格差もあって突っ込み過ぎたのか、私は赤子の様に転がされてしまった。
シンバさんが教えてくれるのは剣での戦闘で、元凄腕の冒険者だったらしく、その動きは柔軟でいて隙がない。
「剣筋が愚直過ぎますよ。ただ振り下ろすだけでなく、相手の動きに合わせた空間を潰していく立ち回りを心がけるのです」
「はい、先生」
立ち会いの後は、ひたすら型の練習を行う。
冒険者の動きだけではなく、正式な騎士の剣技も修練する。
鍬より重い剣でも〝剣聖〟の加護で軽々振れる。
なかなかに良い音をさせている私の剣速に満足して私はシンバさんに尋ねる。
「今の私の剣は、ネギを綺麗に切る事が出来るでしょうか?」
「⋯⋯⋯⋯出来ます」
シンバさんが言葉に詰まった。
気を使わせてしまったようだ。
私の剣技はまだその域には到達できていないのだろう。
もっと努力しなければ。
——次の日。
魔術を教えてくれるギースさんが来た。
ギースさんは、隣の領地で魔術の研究している魔術学者で、週に一回魔法を教えてくれている。
「ノチアさん、集中してください。空間を圧縮するように魔力を留めるイメージです」
「はい、先生」
今日の授業は炎をその場に留める訓練だ。
これが出来れば、一定の火力で鍋を煮込む事が出来る。
私は眼の前に出した炎を維持するために魔力を注いでいく。
しかし、これが難しくて、留めようとすればするほど炎の色が変わってしまう。
「威力は十分でしょう。あとは指先の感覚を研ぎ澄まし、流れをコントロールすることで維持するのです」
「はい、先生」
休憩を取りながら何度も魔力操作の練習を続けていく。
炎、水、氷、ラーメンに関係なさそうな風と土もやった。
夕方過ぎになって、私は確信をもってギースさんに尋ねる。
「先生、しっかりスープを煮込むことが出来るでしょうか?」
「⋯⋯⋯⋯出来ます」
ギースさんも言葉を詰まらせていた。
やはり、ラーメンの道は険しい。
——そして、私は新たな壁に挑んでいた。
「ダメ。これじゃラーメンじゃなくてうどんだわ」
収穫量が増えたといっても小麦は無駄遣いは出来ない。
慎重に慎重を重ねて麺作りに挑んでいる。
しかし、なぜだか何度作ってもラーメンの麺にならない。
「色は黄色くならないし、麺も縮れてこない。なにが原因なの?」
前世の私は料理が下手だった。
バイトではやらされるのは注文取りや配膳係。
バイトの時ではそれで満足だったが、調理の経験が全然足りない。
しかも、バイト先はそもそも自家製麺ではなかった。
「こんな事なら前世で、もっとラーメンの勉強しておけば良かったわ」
当時はラーメンは食べるだけで満足していた。
そのせいで私には、作るための知識が完全に欠けている。
ラーメンは好きだったが、作れるようになるまでには私の人生は短すぎた。
「やっぱりラーメンを作れる職人を探したい。でも王都にも無いんじゃ一筋縄ではいかないし、父様も母様も忙しい。探してもらうにしても人脈が必要だわ」
幼い我が身が恨めしい。
焦れったさが募り、厨房のうどんの前で頭を抱える。
「あら、ノチア料理を作っているの?」
「母様! えっと⋯⋯これは違うの」
「まあ、美味しそうじゃない」
「あっ!」
私は恥ずかしくて、茹でただけのうどんを必死に隠そうとした。
しかし、母様は素早く後ろに回り込むと、ヒョイとお皿のうどんを取り上げてそのまま口に入れてしまった。
「うん、美味しいわノチア。これはダスティンにも食べさせてあげなきゃね」
「母様、違うの⋯⋯それは失敗作なの。父様は黙っていて」
スープも無い、平皿に乗せられただけのうどんが恥ずかしかった。
そして、それを美味しそうに食べてくれて母様の姿が嬉しかった。
「失敗作なんて言わないで、これはノチアの努力の証なんだから」
頭を撫でて優しい笑みを向ける母様を見て涙が目に溜まる。
私はこんなにも幸せだ。
それを、今はただ返したい。
あの麺にする方法はまだわからない。
でも、今はうどんだって構わないと思った。
母様と父様が笑顔になってくれるなら。
いつかラーメンの麺も作って見せる、でも今はこのうどんを完成さるためにスープを作ろう。
うどんをまず美味しく食べて貰わなきゃ。
これもラーメンへ続く第一歩なのだから。
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