2 斜め上の思考
領地に着いて、私は母様の胸に飛び込んだ。
加護が〝剣聖〟と〝魔導王〟だった事、その苦しい胸の内を明かした。
「加護を授かったの。でもラーメンじゃ無かったの。ラーメンも無かったの!」
「あらあら、それは悲しいわね。でもねノチア、女神様は意味のない加護をお与えになることはないわ。きっとノチアの加護にも意味があるのよ」
母様は、手編みのレースの大きな襟に私の涙が染み込むことも気にせずに、私を包み込むように抱きしめてくれた。
それだけで、私の胸に詰まった何かが流れていく様な気がした。
「加護の意味?」
「ええ、そうよ。⋯⋯ねぇノチア、あなたにとってラーメンって何?」
「私にとってのラーメン?」
私は前世のラーメンの記憶を辿る。
食べている時だけは、純粋に笑顔でいられた。
それは陽だまりにいるような、かけがえの無い時間。
今のこの時と似ている。
「私にとってラーメンは⋯⋯限りない幸福」
「私達といるのは幸せじゃない?」
「違うのよ! 大切な人にこそより幸せになって欲しいの! ラーメンはそれを叶えてくれるのよ」
「ならばきっと、ノチアの加護はその思いに続いているはずよ」
「その思いに!?」
母様の金色の睫毛に縁取られた青い瞳が、真っ直ぐ私の目を見ている。
私は深く考える。
加護には意味がある。
〝剣聖〟 立ちふさがる全てを切り裂く刃の達人。
〝魔導王〟 炎や水といった自然の力を自在に生み出し操る叡智の王。
それはつまり、〝剣聖〟は食材を切り、〝魔導王〟が食材を煮込む。
二つの加護が合わさって、初めてラーメンが生まれる。
そう、確かにこの加護はラーメンに続いていたのだ。
「母様、全ての道は幸福に続いているのね」
「ええ、全ての道は幸福に続いているわ」
それにね、と母様は笑う。
「幸福は人の数だけあるのよ。それぞれの人にそれぞれの形があるのだもの、いくらだって見つけられるわ」
晴天の霹靂。
そうだった。
この世界はいろんな人がいる。
人種だって地球よりずっと多い。
王都に無くても世界のどこかにラーメンは必ずあるのだ。
「母様、わたし世界中のラーメンを見つけてみせる。私、世界をラーメンで溢れさせたいの」
「ええ、ラーメン溢れる世界にしましょう。あなたなら出来るわ」
——それから私は父様に加護の話した。
父様は公にはしない方が良いけど、加護はちゃんと育てたほうが良いと、口の固い家庭教師を付けてくれた。
私は先生のもとで魔法を唱え、剣を振るった。
そして、鍬も振るった。
「お嬢ー、シルバさんが探していたぞー」
「あっ、いけない。剣の先生が今日来るんだったっけ」
畑で鍬を振るっていた私を、農夫のエドガーが呼んだ。
開拓も手伝うようになった私は加護をおおいに振るって畑を耕した。
〝剣聖〟の力を持ってすれば、どんなに硬い土もフカフカに耕せる。
食材作りにも役立つなんて、さすがは料理人に連なる加護だ。
遠くに目をやれば、少しだけ広くなった小麦畑に麦がなり始めていた。
「お嬢、早くー! 俺達が怒られちまう」
「あれ? エドガー、私って剣をどこに置いたっけ?」
「ちょっ、勘弁してくださいよー」
これからは小麦の収穫量も増えていく。
麺作りにも挑戦しなきゃいけないし、やることは山積みだ。
でも、諦めない。
ラーメンの道も一歩からだから。
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