1 加護もいいけどラーメンもね
「父様、私ね。将来ラーメンになるの」
「ははは、そこはお父さんのお嫁さんって言うところだぞノチア」
そう言って、父ダスティン・ライ・ラウメ子爵が私の頭を撫でと、私を乗せた馬車が静かに止まる。
父に引かれて、開かれた扉から外に出ると足元が揺れる錯覚に陥る。
何日も馬車に揺られ続けたせいで、陸酔いしたのだろう。
「危ないよノチア。ほらおいで」
スラリとした体躯だが、辺境の領主と言うだけあって、鍛えられてた父様が私を軽々と抱き上げる。
父様の、体の前に流された結ばれた灰色の髪が、私の鼻をくすぐり思わずくしゃみがでる。
父様が、優しい笑みを浮かべると、同じ色の私の髪を掬い上げてキスをする。
「ごめん、ごめん。くすぐったかったかな?」
父様の顔を見上げると眩しさに目を瞑る。
飛び込んできた太陽の反射に目を細めて視界向ければ、美しいステンドグラスを有した大聖堂が人々を迎え入れていた。
ここで私は洗礼を受ける。
七年だ。
七年、私は待ったのだ。
さぁ女神様、転生者の私にチートを。
並んだ子供達が司祭様に次々に呼ばれていく。
呼ばれる順番は、身分の低い順だ。
子爵とは言え、父様の領地は目立った資源もない辺境の地。
私の呼ばれる順番はかなり早かった。
司祭様に呼ばれ、前まで行って私は願う。
さぁ、女神様お願いします。
私に〝ラーメンの加護〟を!
「女神の子ノチア。この者に加護を授け給え」
跪いた私の頭に、聖水の満たされた杯から抜き出した月桂樹が触れる。
すると頭の中に文字が浮かび上がる。
〝剣聖〟 〝魔導王〟
浮かび上がった文字を私の理解が拒んだ。
予想外の酷い裏切りに眼の前がチカチカする。
「⋯⋯ラーメン⋯⋯じゃない」
ショックのあまり私は気を失った。
——私の前世は幸福ではなかった。
仕事もせずにギャンブルで借金ばかりする父。
それにひたすら耐える母。
いつもお腹を空かせていた。
一月に一度だけ、母と分け合って食べたラーメンだけが私の幸せだった。
高校生の時に母が亡くなり、私は一人になった。
借金に苦しむ中、ラーメン屋のバイトで出る賄いだけが母を思い出させ、辛い生活を忘れさせてくれた。
給料が入ったある日、後ろから何者かに殴られ給料を奪われた。
⋯⋯あの男だった。
薄れゆく意識の中、近くの人に通報され焦って逃げようとしたあの男が、車に跳ね飛ばされるのを見た。
ざまぁみろだ。
——目を開ける。
本当の父様が優しく覗き込んでいた。
目を覚ました私の頭を、父様の手が撫でる。
くすぐったくて私は笑った。
「おはようノチア。疲れていたのかな?」
「父様⋯⋯私⋯⋯ごめんなさい」
ラーメンにはなれなかったの、そう言葉を続けようとしたが父様が遮る。
「いいんだよ、大した加護じゃなくてもノチアはノチアだ。そうだ、領地に帰る前に加護のお祝いに美味しい物を食べよう」
「⋯⋯うん。せっかく王都まで来たんだもの、ラーメンを食べないで帰れないものね」
「えっ? ラーメンは食べ物なのかい?」
「? 食べ物以外でラーメンがあるの?」
父様と見つめ合う。
私の頭にハテナマークが浮かび続ける。
いまいち話が噛み合っていない。
まさか、ラーメンが⋯⋯無い?
内心で冷や汗を流しながら、笑顔で王都を回った。
わがままを言って隅々まで回った。
ラーメン屋は無かった。
「うあぁぁぁぁん。もうお家帰るー」
「おやおや、お母さんが恋しくなったのかな? 連れ回してわるかったね」
帰るために乗り込んだ馬車で私は泣き続けた。
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