29 試作の剣は
「えっ、中華包丁? 嫌じゃが」
私の依頼はデッカにあっさり断られた。
「そんなこと言わないで作ってよ。私はどうしてもデッカに中華包丁を作ってもらいたいのよ」
「い・や・じゃ。なんでワシが調理道具なんて作らにゃならんのじゃ。ゴウオウを斬る剣を作ることでワシは忙しいんじゃ」
「お願い~! デッカのゴウダン剣を使った時に、凄く手に馴染んだんだよー。デッカの打った包丁なら、きっと私も上手く料理が出来ると思うの~」
「褒めても無駄じゃ! ワシの剣が素晴らしいのはワシが一番わかっておるわい」
私はその後もしつこく交渉を続けた。
一時間くらい粘っていると、さすがに見かねたのかアイラが私を援護してくれた。
「デッカがプロ意識を持って鍛冶に取り組んでいるのは知っているが、ノチアの依頼を受けてはどうだ? あえて剣以外を作ることで見えるものもあると思うんだ。それに、この工房はノチアの協力で完成させたのだろう? 恩を返すと思って、少しくらい話しを聞いても良いんじゃないだろうか?」
アイラの言葉を聞いたデッカが頬をかいて考える仕草をする。
「⋯⋯しつこいのう。まあ、お前さんの言うことも一理あるのは確かじゃ。正直、少し行き詰まっているのは事実じゃしのう」
「えっ、じゃあ作ってくれるの? やったー」
「た・だ・し、条件がある。ワシの打った試作品の剣でいくつか試し切りをしてもらう。ワシの感ではノチア、お主なかなかの加護を持っておるじゃろう?」
「ん? まあ、野菜を上手に斬ることも出来ない程度の加護だけど」
私が了承すると、デッカが店に入り三本の剣を持って戻ってきた。
そして、その中の一本を渡された。
直刃の大きい剣だ。
「まずはそれじゃな。重量で断ち切る様に意識して作ってみたんじゃ」
「試し切りはどれにしたらいいの?」
「そこにロープを巻いてある丸太が置いてあるじゃろう? その上に振り下ろしてみて感想を聞かせてくれ」
「これね。 よーし⋯⋯やーっ!」
ガギィン!
掛け声とともに振り下ろした剣は、机もろとも丸太を両断し地面の岩に当たって折れてしまった。
「ごめん折れちゃった。剣の重心が私に合ってなかったから、ちょっと失敗しちゃった。感想としては切れ味がいまいちだったかな?」
「んなー!」
デッカがこれでもかと言う程に目と口を開いて固まっていた。
「はっ! 折れたのは良い。あくまでも試作じゃからな。わはは⋯⋯」
「じゃあ、次はこれね」
「そっ、それなら折れんぞ! あえて柔軟さを持たせることで折れにくくしておる。この金棒で試し切りしてみるのじゃ」
二本目の剣は曲線を描くように出来ていて、少し日本刀っぽかった。
金棒を立てかける様に置くと横薙ぎに斬りつける。
ギギュゥン!
斬りつけると金棒は両断出来ずに曲がってしまった。
そして、剣も折れなかったが曲がってしまっていた。
「これも切れ味がいまいちだね。しかも、グリップの形のせいか手首にかかる負担が大きい気がする。改善点だね」
「むおぉーーーん」
私が感想をデッカに伝えようと振り返ると、へんな声を上ていた。
「じっ、じゃあ最後ねって⋯⋯あっ、あれ?」
デッカが用意していた最後の一振りを取ろうとすると、あろうことかそれは金棒の横で両断されていた。
「えっと、ごめん。ついでに斬っちゃった」
私がそう告げると、デッカが白目を剥いて後ろに倒れた。




