22 ポーションと商人
「私も手伝いましてよ!」
アイラが少年の手を取って立たせる。
「ほっ、本当ですか? どうして急に」
「ノチアがそう望むなら私だって協力するに決まっているじゃない」
アイラが私に微笑む。
「そうね。私にはアイラがいるわね」
「ええ、私達の間に遠慮はいりませんことよ」
アイラの口調が元に戻っている。
とても嬉しいけど、何故かアイラは協力相手のツテゾを牽制しているように見えるのは気のせいだろうか?
「とりあえずは明日からでしてよ。ポーションの講義をしてもらいますから、ツテゾは研究の資料を用意しておいてくださいまし」
そう言うとアイラが、私の背を押して店から連れ出した。
次の日、店に到着するとカウンターに大量の紙束が重ねられていた。
ツテゾの目がランランと輝いているのがわかる。
ポポンを思わせる瞳に尻込みしていると、案の定しゃべり出したツテゾが止まらなくなる。
理解できない用語や理論の連続に目を白黒させて、隣のアイラを見ると、凄まじい速さでメモを取っていた。
「アージュ豆を使用してのポーション内の性質変化の定着と不純物の除去の考察?」
ちらっとレポートを見たが、そもそもこの世界の食材に詳しくない私にはハードルが高すぎる。
ポーションの開発で私に出来ることはない。
早々に研究の参加は諦めるが、絶対に譲れない点をはっきりさせなければならない。
私はツテゾの話が途切れる瞬間を待って会話に切り込む。
「一言いいかしら!」
さすがは料理人の末席に連なる〝剣聖〟
会話の隙は見逃さない。
「ポーションを改良するうえで、効果だけじゃなく味も改善しようとしているのは素晴らしいと思うわ。でも、せっかくの味をただ消すだけが改善ではないと思うのよ」
「でも、ポーションは何度も飲むものですし、味が受け付けやすい方がいいと思いますが」
「うっ、でも、ほら味は大切で⋯⋯。えと、あの、お醤油がぁ~」
私の提案が簡単に論破されて、声がどんどん小さくなる。
負けては駄目よノチア!
自分を必死で奮い立たせる。
もしここで醤油の味を失ってしまったら、三日は寝込む自信があるのだ。
「そうね。あえて調味料の味を作り、料理に気軽に使えるようになれば、普段からの病気や怪我の予防になるかもしれないわね」
「そういう考え方もあるんですね。さすがノチア様!」
「アッ、アイラァ~」
この感謝を伝えるべく、私はアイラに抱きついた。
「ありがとうアイラ。私に出来ることならなんでも言ってね」
「ノチア! いいのよお礼なんて。ただそうね、せっかくだから一緒にお風呂に入って背中を流しっこして、同じ布団で寝ましょう。あとそれから⋯⋯」
アイラが何か言っているようだけど、今は頭に入ってこない。
すでに私の頭はラーメンの事で一杯になってしまっていた。
(醤油が手に入るなら、早く鶏ガラのスープを完成させなきゃ! 塩にしても醤油にしても鶏ガラがなきゃ始まらないわ)
ピーピンバードを討伐したことで、山には鳥類が戻ってきているはずだ。
ダイア領に行くために一時的に止めていた調査の依頼を冒険者ギルドに行って再開させなければならないのだ。
アイラを見ると、ポーションの改良で頭が一杯なようだった。
いまの私も気持ちは同じだ。
邪魔しては悪いので、ツテゾに断りを入れて私は一人で冒険者ギルドに向うことにした。
「あっ、あれ? テスラさん? どうしてここに?」
「おお~。ノチアっちじゃないっすか~。お久しぶりっすね」
冒険者ギルドに着いたら、そこにはテスラさんが居た。
「いや~。ピーピンバードの一件で纏まったお金が入ったんで、いま話題のラウメ領に来たんすよ~。ラウメ麺が気になっちゃって」
その言葉を聞いて真顔になる。
「待って、今なんて言ったの」
「ちょっ、ノチアっち顔が怖いっすよ~」
ラウメ麺?
ラーメンに対する挑戦かしら?
まさか、あのカレーうどんをラウメ麺なんて名付けてる人間がいるのではないでしょうね?
「いけない。こんな事ならゴウダン剣の手入れをしておくべきだったわ」
「ノチアっち? 笑顔が怖いっすよ? 何考えてるんすか」
悪を滅ぼしに行こうとする私をテスラさんが何故か止める。
不思議に思っていると、そこにアイラが走ってきた。
「ノチア、私を置いていくなんてあんまりですわよ」
「アイラ嬢、ノチアっちを止めて欲しいっす」
「あら、あなたは冒険者の⋯⋯なぜノチアと一緒なのかしら」
テスラさんに気がついたアイラに私は思いをぶつける。
アイラならわかってくれるはずだ。
「アイラ、私許せない奴がいるの」
「そうなの⋯⋯じゃあ滅ぼしましょう」
「なんでそうなるんすか。アイラ様は冷静なお人でしたっすよね? どうしたんすかー」
「テスラ? 案内してくださるわよね?」
「⋯⋯あっ、はいっす」
テスラの案内で不届き者の住処へと私達は向かった。




