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凄い加護を貰いましたが、私の夢はラーメンですよ女神様!  作者: 千両
三章 ノチアの為の工房作り

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21 新たに抱えた問題

「アイラ、ちょっと待って!」

「ははは、どうしたんだい? そんなに慌てて」


 領に帰還した私はある問題を抱えてしまった。

 それは眼の前の友人アイラだ。


「どこに行くつもりなの?」

「剣の稽古に決まってるじゃないか!」


 私はアイラの全身を見直す。

 ゴージャスに巻かれた金髪をポニーテールに結び、乗馬用の細身のパンツと刺繍が入ったジャケットを見事に着込んだ姿は、まさに男装の麗人だ。

 ダイア領に居た頃から剣士に憧れていたのは知っていたが、ラウメ領に入り監視の目(本人曰く)が無くなった事で、アイラはハッチャケてしまったのだ。


「ラウメ領から帰ってきたら男装の麗人になってたなんて、シュリン様に申し明けが立たないわ」


 アイラの衣装は、馬車に乗っていた時のドレス以外は、全てがズボンの様な男装だった。

 最初から計画していたに違いない。

 私と離れるのが寂しいから付いてきてくれたと思っていたのに、がっかりだ。


「離れたくなかったのは本当よ? でも、こんな機会もう無いんですもの、ダイアに帰る時はちゃんと戻りますから、少し羽目を外すくらい許してほしいですわ」


 アイラが口調を元に戻して、申し訳無さそうに言う。

 まあ、私もヤンチャで父様や母様を心配させているので強くは言えないし、今は『領に帰るまで』という言葉を信じるしか無い。


「では参ろうか。はーっはっはっ」

「本当に戻すのよね!」


 教会に着いた私達は、シンバさんの元で子供達と共に剣を振るう。

 シンバさんのアドバイスで、アイラの剣は重さに振り回されない様にレイピアの変えてある。

 それでも、アイラの加護の〝賢哲〟は学者に分類される系統なので剣を持つ手助けにはなってくれていない。

 アイラが訓練終わりに体力を回復するポーションを飲んでいた。


「——ッ。この体力回復ポーション、安くて効き目は良いんだけど、やっぱり飲むのが辛いな。だが、そこが良い!」

「それって人気が全然ないって噂のポーションよね? なんでわざわざ不味い物を飲むのよ」


 体力回復ポーションと言っても、アイラが飲んでいるのは、前世で言うエナジードリンクのようなものらしい。

 私は加護のおかげか、ほとんど怪我をしないし、疲れもすぐに飛ぶのであまり飲んだことはないが、ダイア領で陶器に火入れをした際には魔力回復ポーションを飲んだ。

 薬だけあってすごく苦かったが、あそこまで苦しそうに飲む程ではなかった気がする。


「まさか、わざわざ不味いポーションを飲んでいるの?」

「そのまさかさ! 練習も苦しい方が身になると言うじゃないか! この苦しさが私を次のステージに連れて行ってくれるのさ」

「変な扉が開いてるんじゃないでしょうね」


 〝賢哲〟の加護があるのに、そんなバカな発言をしている友人に少し引いてしまう。


「ノチア嬢も飲んでみると良い!」

「本当? 実は少し気になっていたのよ」

「なっ! ノチア!」


 私がアイラの飲みかけを貰って飲む。

 するとアルコールの様な刺激が喉を焼いた。


「うっ、ゲホゲホ」

「なななな! なんて事をノチア、私の瓶を一緒にのっ、飲むなんてはしたなくってよ!」


 アイラが真っ赤な顔で抗議してきたが、私はそれどころじゃなかった。

 ポーションの味が問題だ。

 塩っけが強すぎる上に甘ったるいという矛盾したこの液体から、ほのかに香る後味は、間違いなく『大豆』の風味だった。


 これを上手く調整できれば『醤油』が作れる!


「アイラ、どこで買ったの! お店まで案内して」

「そっ、それって私とまた、かっ関節キスをしたいって⋯⋯」

「お願いアイラ!」

「わかりましたわ⋯⋯では、行こうか! ノチア」


 何故か手を差し出したアイラに引かれてポーション屋にいった。

 ポーション屋は空き家だった所を見せとして買い取ったのか、ボロボロで商店街から離れていた。

 しかし、店から漂う匂いは間違いなく醤油の香りだ。


「たのもー!」

「ふぁっ、はいぃ! って、これはアイラ様。また体力回復ポーションをお求めですか?」

「いや、今回は⋯⋯」

「店主を呼んで。それからここの商品、端から端まで全部一本ずつ頂戴!」

「私が店主のツテゾですがって、えええっ! 全部ですか!?」


 私の発言にポーション屋の店主ツテゾが驚愕に目を見開く。

 十六才くらいだろうか、茶髪の癖っ毛でそばかすと大き目のメガネが特徴的で、エプロンをして立っている姿はお手伝いさんのようだ。

 目を見開いたツテゾが狼狽える。


「本当に購入するんですか? 全種類?」


 困惑する理由はわかる。

 アイラは安いと言っていたが、それはポーションの相場での話であって、ポーション自体はどちらかと言えば高級品に分類される。

 端から端まで全部と言った私に、疑いの目を向けるのは当然だった。 

 でも、私にとっては何よりも重要な事だ。


「あなたのポーションが私には必要なの! 世界を変えるほどの価値があるのよ!」

(カレーうどん一種類のみの世界なんて嫌だもんね)

「僕のポーションが⋯⋯ありがとう。ずっとその言葉を聞きたかったんだ」


 感極まったのかツテゾがそのまま気持ちを吐露しだす。

 この世界のポーションは現在、貴重な素材をふんだんに使って、なおかつ難しい術式で作られているため、とても高価で数も少ない。

 レシピは門外不出で各々の店でのみ扱っており、効果も効用も店によってまちまちなのだ。

 すでに出来ているレシピを変えようなど、タブーとされている。


「僕はもっと気軽にポーションが使える世界にしたかったんだ。そうすれば救える命が沢山あるんだ」


 ツテゾが悔しそうに手を握りしめた。


 ガリッ!


 突き立てた爪が地面と擦れて音がなる。


「でも、独学でポーションを学ぶしかなくて⋯⋯。やっと、研究が軌道に乗り始めた時に、薬事協会はそんな僕を異端者として追放したんだ」


 ツテゾが涙目で私を見た。


「もう、諦めかけていたんだ。そんな僕に、あなたは一番欲しい言葉をくれた。ありがとう」


 ツテゾは私の手を取り感謝こ言葉を続ける。

 そんなの思いを聞いて、私は内心で冷汗をかいていた。


(どうしよう。ポーションじゃなくて醤油を作ってなんて、さすがに言える雰囲気じゃないよー)


 私は跪いて涙を流すツテゾを前に軌道修正する方法を必死に考えていた。



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