113 急転
「ゴウオウ、まず最初に聞いておきたいんだけど、他の竜からの意見を聞いて贈られた物を貰ったらどう思う?」
「ノチアからの? それは嫌じゃん。ノチアが選んでくれた物なら何でも嬉しいじゃんよ。意見なんて聞く必要ないじゃん?」
「そうなのね。じゃあ、私以外の人だった場合は?」
「そんなのどうでもいいじゃん。勝手にすればいいじゃんよ」
「うーん、予想通りな答えね」
ゴウオウの意見が全ての竜に当てはまるかはわからないが、意見を聞くだけなら機嫌を損ねる可能性は低そうだ。
もし私が居なくなった後だったら?
頭の中にその言葉が浮かんだが、そんな無神経な質問は口には出来なかった。
どうでも良いと言う意見は贈り物の参考にはならなかったが、ゴウオウの意見をもう少し聞いてみることにする。
「ノチアは他の竜の事なんて考えちゃダメじゃん。ワシだけを見るじゃん」
続けて質問をしようとした私に、ゴウオウがまたしても体を寄せてきた。
「ゴウオウってこんなに独占欲が強かったかしら?」
「……強くなってる自覚はあるじゃん。きっとあのお守りが原因なんじゃんよ」
「シルテーリア様の話ではお守るは、むしろそれを抑えてくれているって話よ?」
胸元に入れている紋章の刺繍の入った袋を取り出して見る。
その瞬間にゴウオウが嫌な顔をして私から離れた。
近くで静かに見守っていたシアがお守りを見ると慌てたように私に近づいてきた。
「あっ、あの、ノチア様。よろしければそちらを見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「また様付けになってるわよシア」
「ああ、そうですねノチア」
「うーん、お守りは他の人に見せても良いのかな? シアなら問題ないとは思うんだけど?」
「そんなお守りあげちゃっていいじゃん! 渡しちゃうじゃん」
迷ったがシアが気になると言うので渡すことにした。
お守りを見るとシアが考え込む。
「少し匂いが薄まったじゃん。って、嫌な匂いだと思ったら、この匂いってあいつののじゃん!」
「あいつ? シルテーリア様や女王陛下のこと?」
「違うじゃん! さっきまでノチア達を覗いてた奴じゃん!」
「さっきって⋯⋯えっ! ヴォラパルテ様の匂いってこと?」
ゴウオウが以外な匂いの正体を告げてきた。
その言葉に考え込んでいたシアが納得の声を挙げた。
「やはりそうなのですね。この袋に使われている布と生地の模様は、ドーリッシュ地方独特のものなんです」
「他の竜の匂いをまとわせるとか、許せないじゃん!」
「ゴウオウ抑えて! シア、お守りを返してくれる?」
「お守りはいらないじゃん!」
ゴウオウの感情が今までで一番不安定になっている。
私がシアにお守りを返してもらおうとするが、その行動がさらにゴウオウを刺激してしまった。
「ノチアはワシだけを見てればいいじゃん!」
ゴウオウが暴走しかけた瞬間、その場に声が響いた。
『ああ、恥ずかしい……過去の失敗を見せつけられているようだわ。穴に入りたい』
言葉の内容とは裏腹に、響いたその声は空間そのものが震え上がらせるほどに威厳に満ちていた。
無意識に身構えたまま視線を上にあげると、私たちの頭上に竜と傍らを飛ぶ一匹の小さな鳥がこちらを見下ろしていた。
白い体はゴウオウの様に竜特有の見た目だが、体は私と同じくらいの大きさしかなく、翼や爪に至るまで流線型を帯びている。
赤くふちどられた目はしっかりと閉じられていて、顔を隠す様に両手が前に出されている。
『心の幼き竜よ、律しなさい。その行動は羞恥。あとで悶えたくはないでしょう?』
「竜が何しに来たじゃん! ノチアは渡さないじゃん!」
『ああ、共感性羞恥』
現れた竜をゴウオウが威嚇するように睨む。
しかし、そんな視線を受けて身もだえる様にその場でくるくると回った。
「……ヴォルパルテ様」
シアがその場で跪く。
やはりこの竜がヴォルパルテのようだ。
「失せるじゃんよ!」
『もうやめて。私は穴に入りたい』
私が止めるよりも早く、ゴウオウが攻撃するために飛び上がる。
しかし、その瞬間にヴォルパルテが体から強烈な光を放った。
「なにが! ……って、え?」
収まった光の中、なんとか目を開けた私が見たのは、剣を地面に突き刺して立つ緑の髪の女性だった。




