112 好物の調査
ゴウオウと別れて、宿泊している客人用に用意したラウメの館に戻り、三姉妹とドーリッシュ領に伝わる伝承や歴代の巫女の日記を調べる。
「ヴォルパルテ様がお酒や宝石を好んでいるのはオーレリア様の影響のようですね」
「でも好んでいる種類までは記載されていないですね」
お酒や宝石を好んでいた事実は見つかるが、それが何かまでは書かれていなかった。
シアと私が思案していると、ディアとフランが本を閉じた。
「お酒と宝石を用意すれば会ってくれる。なら部外者は不要。巫女には私がなる」
「いいえ。ヴォル様の真意を聞くのは私です。その如何によっては私の代でヴォル様をドーリッシュ領から開放するのです」
「どうしてですの。私たちは協力すべきだわ」
「いいえ、良い機会ですわ。元より巫女には一人しかなれませんもの、ここで白黒つけるべきです。ノチア様、悪いですけどゴウオウ様の力を借りるのは止めてください。他の竜の力を借りた贈り物などヴォル様に失礼ですわ」
「なっ! 失礼なのはディアです!」
「大丈夫よシア。私もその方がいいかなって思っていたし」
なんとなく私もゴウオウの力を借りてはいけない気がしていたので、ディアの申し出を受ける事にする。
フランもディアもバラバラに探す事になった。
シアは必死に説得しようとしたが、聞く耳を持たない二人に肩を落とした。
「申し訳ありませんノチア、私がもっとちゃんと二人を説得で来ていれば……」
「気にしちゃダメよシア。竜の望んだ物を手に入れられれば良いんだもの、手分けをするのは悪い手では無いわ。それより、シアも巫女になりたかったりするの?」
「それは……ええ。ドーリッシュの人間でヴォルパルテ様に仕えたくない者など、おりませんから……。ですが今は、ヴォルパルテ様のお言葉を聞ける人間が出るのならば、それが私では無くても良いと思っていますわ」
私たちは少しでもヒントは無いかとさらに日記を見直す。
「良く出る街の名前があるわね」
「ランレットですね。オーレリア様の生まれ育った町だと言われています。その場所がどこだったのかは正確にはわかっていませんね。候補地は三か所あります」
日記に出てくる場所だが、何百年も前の話しなので、今では存在しなかったり正確な場所や地名が解らないものも多い。
「ここまで来ると、日記より歴史の書かれた本の方が解りそうね」
「私もディアやフランの様に、竜や巫女の事でもっと調べていれば良かったのです。シュトルム公爵の長女として学ばねばならない事で忙しくて……いいえ、言い訳ですね」
「そんなことは無いわよ」
おそらくシュトルム公爵家には姉妹だけで後継ぎとなる男子がいないのだろう。
公爵家ともなれば、学ぶ内容は多岐にも渡るはず、いくら時間があっても足りないだろう。
「やっぱり好むとすれば領地のお酒や宝石よね。領内に有名な産地があったりしないの?」
「そうですね。お酒だとシャントのワイン、マルガのリンゴン酒、オニーゴの火酒です」
「火酒ってすごい名前ね」
「実際に凄いですよ。度数が高くて焚火の近くに置いておいたら、樽から火を噴いたと言う伝説もあるくらいです。ただ味より酔う事を優先したお酒って話で、巷では安酒の代名詞です」
「宝石の方もあったりするの?」
「宝石の取れる可能性がある鉱山はレルッペだけです。それも特別珍しい宝石が出るわけではありませんね。ガーネットが川でも取れるようで、子供たちが遊びで欠片を集めたり村で安く売っていたりするようです」
「さすがね。シアが領地の事をしっかり勉強しているのがわかるわ」
「……恐れ入ります」
領地の事を勉強しているからこその情報だ。
私がそのことを褒めると、シアが恥ずかしそうにはにかんで喜ぶ。
年相応の反応でなんとも可愛らしかった。
(すこし達観して見えたけど、領を継ぐ者として無理していたのかな?)
「もう少し調べてみますか?」
「うーん、どうしようかな。意見を聞くだけならいいよね」
ディアが言ったゴウオウに手伝ってもらわないという条件は、お酒や宝石を手に入れる過程の話しだと思う。
参考意見を聞くだけならば、本を調べたりするのと変わらないはずだ。
「はずだよね?」
「ノチア?」
「ゴウオウに意見を聞きたいんだけど、それはズルじゃないのかなって」
「それも含めて聞いてみてはいかがですか?」
「そうね」
私たちより、同じ竜であるゴウオウの意見を聞いた方が良いだろう。
何が正解か分からなくなったので、ゴウオウに聞いてみることにした。
呼ぶと返事よりも早くゴウオウが舞い降りてくる。
「聞きたいことって何じゃん?」




