108 訪問者
シルテーリア様の予想の通り、数日するとラウメ領に人が尋ねてきた。
「お初にお目にかかりますノチア様。私はドーリッシュ領シュトルム公爵が長女、ドールシアと申します」
私に対してドールシアが綺麗なカーテシーを取る。
この王国では、王家の意向で貴族は血筋だけでは無く能力も重視される。
そのために、必要以上にマナーで貴族を選別するような文化は無い。
しかし、それでも上位の領地の令嬢が、女王陛下にするような敬意を私に向けることは普通ではありえない。
「ドールシア様……えっと」
「どうぞ、シアと気軽にお呼びくださいノチア様」
「それなら私もノチアと呼び捨てでお願いします」
「わかりましたわ。ノチア」
「それにしても、遠路はるばる良くお越しいただきました」
そして、もう一つ驚いた事がある。
それは彼女の来た領地の名前だ。
ドーリッシュ領は大領地だが、場所が王国を挟んでラウメと真反対の位置だ。
なので、ここまで来るのにかかった日数と苦労は、計り知れないものがある。
それだけの労力をかけてまで、シアはいったい何をしに来たのだろうか?
「本当は、王都での謁見の際に話しが出来ればと、知らせを受けてから自領を出たのですが、ノチアの王都滞在中に間に合う事が出来ませんでした」
(だからってそのままラウメに来るなんて、すごい行動力だわ)
シアは纏う雰囲気が独特だ。
ふんわりした穏やかな雰囲気とその行動力にギャップを感じてしまう。
対面してみれば、シアはエメラルドに輝く綺麗な長い髪をゆったりと流している穏やかな女性だ。
身を包んでいる服も白を基調としたシンプルでデザインで、常に微笑みを浮かべた優し気なタレ目の瞳と、仕草や口調からは高貴さがにじみ出ている。
仕草は綺麗だが、その振る舞いには人懐っこさのようなものがあって、距離感も近くても不快に感じない。
ところどころで奔放さがあって、どこか捉えどころのない。
(なんとなく雰囲気がシルテーリア様に似ている気がするわ)
表向きな訪問の理由は父様に通しているだろう。
しかし、ラウメに来た理由がそんな形式的なものでは無い事はわかる。
上級貴族であるシアに初めから駆け引きで勝てるとは思っていない。
私は、思い切ってストレートに理由を聞くことにした。
「シルテーリア様に来ることは予告されていたわ。単刀直入に言うけど、私に何をさせたいの?」
「まぁ、シルテーリア様が……」
そこでシアが考える仕草をすると、笑顔のままに質問を投げかけてきた。
声は真剣なものだったが、その内容にこそ私は驚かされた。
「あのノチアは…………過去の記憶があったりしませんか?」
「――ッ、それって!」
シアの問いかけに、私の頭に真っ先に浮かんだのは「転生者」の事だった。
そんな質問をしてくるってことは、シアも転生者なのだろうか?
この世界に転生しているのが私一人だけとは限らない以上、その可能性もある。
私が真剣な顔で思案していると、それを肯定と捉えたシアが私の手を掴んだ。
「やはり! ノチアはオーレリア様の生まれ変わりではないのですか?」
「えっ? ……誰?」
「違うんですの!」
「ごめんなさい。その方の生まれ変わりではないわ」
「そう……ですか……」
シアが肩を落として手を離した。
どうやらシアが転生者という訳では無かったようだ。
落ち込む反応を見るに、求めていたのはこの世界の中での転生。
いわゆる輪廻転生だったようだ。
しばらく沈黙が続いた後、落ち込んだ気持ちを振り払う様に頭を振って話題を変えた。
「そうですね。もし生まれ変わりだとすれば、ヴォルパルテ様に会いに行かないはずがありませんものね。私としたことが焦ってしまいました」
「ヴォルパルテ様って言うのは、もしかして竜ですか?」
私を訪ねてくる人物は、私と竜の関係に気が付いた人物だとシルテーリアは言っていた。
恐らくオーレリア様って方は、竜と契約をしていた人物なんだろう。
「はい。ドーリッシュ領にいる竜です」
「私が生まれ変わりだと思ったのはなぜですか?」
「ノチアの加護は〝剣聖〟と〝魔道王〟だとい聞いています。その二つのスキルこそが、初代の竜の巫女と呼ばれるオーレリア様と同じなのです」
「そうですか……」
さすがは公爵家と言うべきか、対外的には秘密の私のスキルもしっかりと把握しているようだ。
王家と血筋が近だけあって情報を仕入れる先も多そうだ。
(スキルが同じ……)
私がゴウオウと契約を出来ているのも、スキルが関係しているのだろうか?
「ノチア、不躾とは存じております。ですが、どうかお力をお借りすることは出来ないでしょうか?」
「やっぱりそういう目的があってきたのね。安請け合いは出来ないわ。まずは聞くだけでもいい?」
「ありがとうございます」
シアは居住まいを正して、真剣な顔つきをした。
「今、ドーリッシュ領では竜の声が聞ける者、竜の巫女が何十年も出ておりません。竜の意思を確認できない状態なのです。そのことで我々の中で考え方に齟齬が生じてしまっているのです」
「私に声を聴いて欲しいと?」
「ノチアが他の竜の言葉を聞く必要なんてないじゃん!」
空間が振動するような声が響く。
それは間違いなくゴウオウの意思で、シアへの敵意を含んでいた。




