106 ゴウオウとのひと時
「ノチア見て見て! ヘフティバードの群れじゃんよー」
「あんなに高い所を飛んでいるのね」
「行ってみるじゃん!」
そう言ってゴウオウが高度を上げると雲の上まで一瞬で上がった。
眼下には、春の近づきを告げる鮮やかな新緑が目を楽しませてくれる。
今日はゴウオウと二人っきりで空の散歩だ。
……っと言うのも、王都からアイラ達をゴウオウに乗せて先に帰ってきたのは良いが、なぜかその後はゴウオウの機嫌がずっと悪かった。
ゴウオウには本当に助けてもらっているので、今回はご機嫌取りもかねて、ゴウオウの気が済むまで一緒にいる時間を作る事にした。
「はぁー。日差しが気持ちいい。気が付けば春だもん、一年が経つのって早いなー」
特に去年はあっと言う間だった気がする。
弟妹の誕生日をプリンと共に祝ってから、味噌と屋台の開発を進め、ガストルの鉱害騒ぎが起きて、解決した後は王都での王様と謁見だ。
弟妹の誕生日に間に合う様に王都から帰って来たのが、ついこの間なのだから、そう感じても仕方がない。
「ノチア、あそこに降りてご飯にしよう」
「お昼ご飯ね。実は楽しみだったのよね」
今回、お弁当として持ってきたのは汁なし担々麺だ。
味噌の研究の時に偶然にだが甜麺醤っポイ物が出来たのだ。
甜麺醤を見て私が「これを使えば担々麺が作れるかな?」と呟いたのを聞いたケイシーさんが、私から聞いたうろ覚えの味の感想だけで、私があちこちを飛び回っている間に、密かに研究してくれていたのだ。
「肉味噌の甘辛さとゴマの風味くらいしかヒントを上げられない自分が情けないわ」
持たせてもらった具材と麺を温めた後に合わせながら、ラーメンを求めていながら、自分に料理の知識と経験が無かった事を申し訳なく感じてしまう。
「そんな顔してるのが一番ケイシーに失礼じゃん? ラーメンを前にしたノチアは笑顔じゃなきゃダメじゃんよ」
「そうね。ふふ、楽しみだわ」
混ぜ始めるとゴマ以外にも山椒のような香りもした。
ニンニクやトウガラシに似た食材は前からあったが、山椒に近い食材まで見つけていた事に驚く。
「いただきます」
まずは担々麺だと言う先入観を捨てて目の前の麺を全力で楽しむ。
よく混ぜて啜れば山椒とゴマの香りが鼻を抜ける。
その後に肉と味噌の甘み、さらにピリッとした辛さが舌を楽しませる。
「……ちょっと辛いね。でも美味しい。少し油っぽさが欲しいかな? ラー油とか入っていたっけ?」
これはこれで美味しいが、記憶の中の担々麵と照らし合わせてみる。
肉味噌はもう少し油っぽくても良かったかもしれない。
「あと、ピーナッツみたいなナッツ系の味がした気がするけど……」
そこで私を見るゴウオウと目が合った。
そこで、ラーメンの改良を考えるのをいったん止めた。
(今日はゴウオウと楽しむために来たんだもの、考えるのは後にしてゴウオウに集中しなきゃね)
「そんなの良いよん」
私の考えはゴウオウに伝わってしまうので、そう言われてしまったが、ゴウオウを労いたいのは事実だ。
その後はゴウオウとゆっくりと過ごそうと思っていたのだが、ゴウオウに寄りかかって、焚火の火を見つめながら話していたら、心地よさからいつの間にか寝てしまった。
「おはようゴウオウー」
「おはようノチア」
ゴウオウが私の体に顔を擦り付ける。
王都から帰る途中もよくやっていた仕草だ。
「うーん。私ってまだ臭い?」
「……ごめん。なんでか臭いんよ」
初めて言われた時はショックだったが、ゴウオウの言う臭いが体臭を指している訳では無いのは今なら何となくわかる。
自分で嗅いでもわからないので原因不明だ。
「王都に行ってからじゃん。なんか付けられたんじゃん!」
「王都ねぇー。ん? ちょっと待って、もしかしてコレ?」
私は女王陛下から渡された、紋章の刺繍の入った袋を取り出した。
「クサッ! それじゃん! 捨てるじゃんよ!」
「さすがに捨てるのは……屋敷に置いておくことにするかな?」
「あらあら~。バレちゃったのねぇ~」
「――っ! 誰!」
「私よぉ~」
木の陰から顔を出したのは、ここにいるはずのない人物だった。
「シルテーリア様がなぜここに? まさか監視していたんですか?」
「監視とはぁ~違うんだけどね~。その袋をもう少し持っていて欲しいのよ~」
そこで私の前にゴウオウが滑り込んで視界を遮る。
そして、シルテーリア様に向けてゴウオウが威圧のようなものを飛ばした。
「ワシの契約者になにするじゃん! クソ竜!」
「えっ! 竜?」
「争う気は無いのよぉ~。だから威嚇はやめてねぇ~。我慢できなくなっちゃうからぁ~」
その瞬間にシルテーリア様から、ものすごい圧があふれ出す。
「上等じゃんよ!」
「だぁ~め! ノチアを巻き込むつもり~?」
「……わかったじゃんよ!」
少しずつゴウオウの圧が下がると、シルテーリア様の圧も下がる。
「それで、説明はしてくれるんですよね」
「もちろんよぉ~」
シルテーリア様が手を合わせて笑顔でそう言うと、私の側に来て座った。




