105 ヘンリーとの話し合い
あとの処理をシルテーリア様に丸投げした私は、テスラにお願いしてまずはヘンリーの執事のギンバーに連絡を取った。
ギンバーは、案の定アリスの現状を見張っていたようで、あっさりと連絡が取れるとヘンリーとの面会の場を整えてくれた。
「まさか乗り込んでこようとは、田舎者の行動力には驚かされる」
「御託はいいわ。来た理由はわかってるんでしょ?」
「あの……ノチア」
私の後ろでアリスが隠れる様にヘンリーをうかがっている。
改めて見るとアリスの髪色はヘンリーとよく似ている。
「アリスはあなたの娘なんでしょ」
「……そうだ」
「――っ!」
私のストレートな発言に、一瞬迷う仕草を見せたが、ヘンリーは思ったより素直に認めた。
その言葉を聞いたアリスの体が強張った事がわかる。
「アリスの今後についてはどう考えているの」
「うむ。……その、妻は大変嫉妬深くてな……屋敷に呼んでやることは出来んのだ。影から生活の支援は出来るのだが、大っぴらには出来ない。済まないアリス」
「いいえ。それだけでも十分です」
大変言いづらそうにヘンリーが口にした内容は「奥さんが怖い」だった。
「だったら初めから妾なんて作るんじゃないわよ」
「いえ、実は……」
私が憤慨していると、ギンバーがこっそりと教えてくれた。
アリスの母であるクルエラさんは、自らの働いている下町の食堂に、息抜きで来ていた若き日のヘンリーに一目ぼれして、あろうことか薬を盛って一夜を共にしたと言う。
貴族に薬を盛るなど殺されても文句は言えない。
あまりにも肉食系なエピソードに私が硬直していると、アリスが察してか苦笑いした。
「母はその……とても情熱的な人だったので……」
「ギンバー! 余計な事をするな!」
「旦那様は弱みを握られてしまいました。これでは多少無茶な要求でも聞かなければならなくなってしまいました。これならば奥様も納得してくれるでしょう」
「……ギンバーさん」
これは私の勘なのだが、ギンバーにこの話を私に伝えさせたのは、ヘンリーの恐れる奥方本人のような気がする。
明らかに尻に敷かれているヘンリーは恐れているようだが、家を守る貴族の妻としてこうやって手のひらの上で転がしているのかもしれない。
「こんな短期間でイメージが変わるなんてね」
あとはギンバーの裁量でどんどんとアリスへの支援が決まっていった。
最初は支援を遠慮していたアリスだが、新たな働き先や宿泊場所も考えなければならないので、最終的にはヘンリーの息のかかった食堂で住み込みで働くことで落ち着いた。
「あの……最後によろしいですか?」
「なんだ? 言って見なさい」
「一度だけお父さんって呼んでも良いでしょうか」
「……ギンバー。これからアリスを連れて帰る」
「なりません旦那様」
アリスの言葉で今までの取り決めをヘンリーが無視しようとして止められている。
「初めからアリスを認知していれば良かったのよ」
「アフェンタの毒牙にかかる人間が居なくなったと思えば結果オーライじゃないっすか?」
「あれ? テスラどこに行ってたの?」
「劇場の支配人の所っすよ。あいつも陰でいろいろやってた見たいっすからね。第二のアフェンタを探したいようで調査に駆り出されてたんす」
私をギンバーに引き継いだ後にどこに行ったのかと思ったら、シルテーリア様に使われていたようだ。
どこに協力者がいるか分からない状態なのでテスラが良い駒なのだろう。
その後、アリスと一緒に住み込みする食堂に行って別れることになる。
「ノチア、本当にありがとう。働き始めたら来てくれる?」
「ごめんねアリス。そろそろ私も自分の領に帰らないといけないの。そうしたら、なかなか気軽には来られないかな」
「そんな! ……ううん。いつになっても良いから、また会いに来て。次にノチアが王都に来る時は、私も自分の店を持って今回のお礼も含めていっぱい歓迎するから!」
「楽しみにしてるわ」
「ラーメンも流行らせるからね。今回の事も歌にしちゃうんだから!」
「それは……ちょっと恥ずかしいな」
そんな事を言って二人で笑いあって、私はアリスと別れる。
次に王都に来た時にはラーメンを出すお店が確実にある。
別れたばかりなのに、次の再会が楽しみでしかたなかった。




