104 切り札
大会が終わり私たちの屋台の順位は2位だったが、お店の売り上げはなかなかのものだったので、賞金と合わせる事でギリギリでアフェンタが請求した分に届いた。
しかし、受け渡しの場でアンリーヌの稼いだお金を前にしたアフェンタが、勝ち誇った顔で告げた。
「残念ながら足りませんね」
「そんな、ちゃんと言われた料金を持ってきました」
「足りないんですよ。調査に追加の出費があったんです。その分の請求も上乗せですよ」
アフェンタが隣に控えている調査をしたという兵士に視線を送ると、下卑た笑いを浮かべた。
「申し訳ありません。操作が思ったより難航してしまってぇ~」
「構わん。いくらでも追加で料金を出すぞ。ふははっ」
「ふざけないで! 直前でそんな事が通るわけないでしょ」
私が異議を唱えると、アフェンタが契約書を出して指で示す。
そこには、よく見ないとわからないくらい小さくアフェンタが言った内容が書かれていた。
「ほら、契約書にも書かれているでしょう? さあ、払いなさい。払えないならわかっているでしょうね?」
「いやっ!」
アフェンタが嫌らしい目をアンリーヌに向ける。
私は怒りを抑えながら条件を出す。
「そんなにお金がかかったのなら、その調査の結果は報告してもらえるんでしょうね。こっちが調査の依頼をしているんですもの、それくらいはしてもらえるのよね。まずは証拠品として押収された服の確認がしたいわ。出して!」
「服? なぜそんな物を?」
その反応を見て私は勝機を確信した。
恐らく欲に目がくらんだアゲートか、その部下が勝手にやった事なのだろう。
証拠に押収した服はここにあるのだ。
焦った兵士がアガートに、アガートが顔色を変えてアフェンタに耳打ちをする。
「……失礼、どうやら調査の途中に賊が入ったらしく証拠の品を紛失したようです」
「いくら何でも杜撰じゃない? 調査する側がそんな事態になってるなんて。私の知り合いに国の特捜兵がいるんだけど、調査をお願いしても良いわよ?」
「ははは、そうですね。ではお願いするとしましょう。ですが、その前に目の前の契約を終わらせるとしましょう」
冷静さを保っているようだが、アフェンタの焦りを感じ取れた。
アフェンタは兵士たちを切り捨てるつもりのようだが、これだけでは終わらせない。
「ところで、私はアゲートの店でその証拠の服とやらを買ったのだけど? それについてはどうかしら?」
アフェンタがアゲートを睨みつけるがそれ以上は言わない。
つまり、アゲートは簡単に切り捨てられないほどの関係と言う事だ。
アゲートも捕まえればアフェンタにも打撃を与えられるとわかり私は畳みかける準備に入る。
「バッ、バカな! デザインがたまたま似ているだけでしょう。別の物です」
「そうですね。良くあるデザインですよ」
「そう? じゃあ、このペンダントもそうなの? これはそもそもアンリーヌのお母さんからもらった形見で私物だったのに、事件で押収されていた品なのよ?」
「それも良くあるデザインです。うちで作ったものに間違いありません」
「そう……これはあなたの店で作ったもので間違いないのね?」
「はっ、はい! うちの職人に作らせたもので間違いありません」
その言葉を聞いた私は手を上げる。
すると、ヘンリーの執事のギンバーが率いる兵士が雪崩込み、アゲートと店の物、そして調査の兵士を捕らえた。
私は事態について行けずに目を白黒させているアンリーヌを真っすぐに見つめると一言だけ聞いた。
「アンリーヌって本名じゃないでしょ」
「えっ、どうしてそれを……」
「そして、本当の名前ってもしかしてアリスじゃないかしら?」
「凄い! あたりです!」
アリス。
ヘンリーが劇場でアンリーヌの事を一度だけアリスと呼んだ。
あれは間違いではなかったのだ。
アンリーヌと言う名は母が名乗らせていたと言っていたが、ヘンリーやギンバーは気が付いていた。
アンリとはヘンリーを捩った名前だ。
それは自分の存在をヘンリーにアピールする為だったに違いない。
そして……。
「何をする。私は何もしていない!」
「いいえ。大罪ですよ本当に。あなたはこのペンダントを作らせたと言ったのですから」
ギンバーが捕らえたアゲートの前でペンダントを見せると、ペンダントの留め具のようなものを抜く。
すると、ペンダントの中に紋章のようなものが掘ってあった。
「これはヘンリー様のジェマント家の紋章です。貴族の紋章を偽造する事の罪の重さがあなたにはわかりませんか?」
「ああ、あああ……」
アゲートは、もはやどんな言い訳も効かないだろう。
自分の仕出かした失敗に声も出なくなっている。
「本当にノチアちゃんは英雄ね~」
「シルテーリア様!」
どこからともなく近寄ってきたシルテーリア様が私を抱きしめた。
そして、アフェンタの方に向き直ると歩き出す。
「私はあなたみたいな愚かな貴族を潰すときが一番好きなの~。せいぜい私を楽しませてね~」
「私は……私は……」
シルテーリア様の姿を知っていたのだろうアフェンタも、これからの自分の結末がわかったのか、青い顔で震えて座り込んだ。
「ノチアちゃん! これにて一件落着ね」
「いいえ。まだです」
シルテーリア様の乱入で忘れそうになったが、まだハッキリさせなければならないことがある。
「アンリーヌ。いえ、アリス。ヘンリーの所に行くわよ! ヘンリーに聞かなきゃいけない事があるわ。そうでしょ?」
「ノチア……うん。一緒に来てくれる?」
「もちろんよ!」




