未来へ戻れる?
とにかくバイロンがいないのだ。
さっきから会場を全て目で追っているというのに。
エイダンの部下たちが密かに取り囲んでいたはずなのに潜り抜けたのだろうか?
気づいた?
どこに消えたのだろう……。
どうしよう……。後ろから攻撃されたらどうすることもできないわ。
そう思っていた時だった。
クリスティアナの横にいたはずの公爵夫人の叫び声が会場中にこだました。
「きゃーーー!」
もちろん車いすだったが、車いすが横転しており、夫人は床に投げ出されている。
「夫人!」
ハンナが叫んで駆け寄ったが、その目の前にバイロンが剣をかまえていた。
「動くな!」
「そなた!やめるんだ」
先の先の公爵閣下が叫んでいる。
「生まれた時から恵まれたお前たちにわしらの気持ちがわかるか!」
「何?」
「生まれた時からゴミだめにいる気持ちが?」
「……」
「ははははは!いい気味だ。もっと焦れ!」
「離すんだ!」
先の先の公爵閣下の額から汗が滴り落ちる。
「お前らのようなただのさばっているだけの貴族がいるからわしらはゴミだめから抜け出せない。動くな!夫人を刺すぞ!」
ドスの効いたバイロンの声はあまりの怨恨がこもっていて分家の者たちは声も出せなくなっていた。
ダメよ!絶対!
ハンナは必死だった。
大急ぎで夫人のもとへ駆け寄る。
守らなければと必死で。
自分のことなんて二の次で……。
「なんだ!お前は!」
バイロンの激高した表情が目の前に見えた。
剣をふりかざすその太刀筋がとてもゆっくりと自分の上に弧を描いていく。
ああ……死ぬ。
過去に戻っている時に死んだらどうなるんだっけ?
そう思いながら、目をぎゅっとつむった。
最後にウィルバートの笑顔が脳裏に浮かんだ。
そして目の前が真っ赤に染まっていく。
もしかして切られたのかな?
わたし死んだのかな?
そう思った時だ。
ぎゅっと暖かい胸がハンナを包み込んだ。
「バカやろう!こんな男の前に飛び出すやつがいるか!」
「え?」
助けてくれたの?
ウィルバートが?
「ウィルバート様……」
目の前にはバイロンが倒れている。
すでにこと切れているようだ。
そうか。彼は剣の達人だった。
「許せぬ!フランチェスコをただちに地下牢に入れよ。グスタフとフィーネもだ。明日より裁判を執り行う!」
先の先の公爵の厳格な声に項垂れたフランチェスコが連れて行かれるのが目に入る。
「皆の者。見ての通りわたしは公爵として失格だ。クリスティアナの結婚をできるだけ早く執り行い、わたしはすぐに隠遁する。余生は夫人とともに、スラム街の復興に力を注ごうと思う」
その言葉を最後に、ぐるぐると目の前が回り出した。
「ハンナ?」
「ウィルバート様」
ぎゅっとウィルバートがハンナを胸に抱きしめる。
とても暖かいと思った。
この暖かさを絶対忘れまい。
「過去が変わったのだわ。だから未来が変わった」
「ハンナ!どうか……」
「わかってます。待ってますから」
「俺は絶対探し出す」
「はい。ウィルバート様。愛してます」
その言葉を最後にふたりの意識は遠のいていった。
明日最後の四話一気に上げます。
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