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「乗馬の事故のとき、馬が急に暴れだしたとおっしゃいましたよねよね?」


「ええそうよ。それで、わたしたちを落として暴走したのだけれど、暴走した馬がわたしたちの方に向かってきたの。それをなだめるために騎乗して暴走馬の前に立ちはだかってくれたのよ。フランチェスコが。彼も馬から落ちて足を痛めた。だから主人は彼を重宝しているの。命の恩人ですもの」


命の恩人を演じるために我が身を犠牲にしたということか。だがそこまでするほどに公爵家が憎かったということかも知れない。恨むという感情の恐ろしさを痛感する。


「おそらくそれは公爵家を乗っ取るためにフランチェスコがしかけたものです。おじい様、フランチェスコは孤児院から連れてきたと聞きました。だが、フランチェスコは孤児院に入っているわけがない。彼の父がバイロンです」


「なんじゃと?叔父ではないのか?」


「バイロンはまぎれもなく父親です。ですから孤児院の院長も彼らとグルだと考えられます。俺たちが帰った後必ず調べてください。彼が庭番をやめさせた可能性が高い」


その当時のことを思い出しているのか先の先の公爵閣下は考え込むように顎に手を置いている。


「確かに、調べてみよう」


そして間髪入れずに最も恐ろしい事実を突きつける。


「やつは数日後に母上を凌辱し、母上との結婚を迫ってきます」


「どういうこと?」


夫人が驚愕の声を上げた。


「母上は仕方なく結婚し、その前に授かっていた僕を産みます。自分の子ができて安泰だと思ったフランチェスコはおじい様とおばあ様を殺し、自分が公爵家の血筋で母上は公爵家の分家筋から嫁いできた嫁という偽りの家系図に作り変えます」


「なんじゃそれは?そんなことを国王陛下が許すわけがないだろう?」


先の先の公爵閣下は怪訝な顔をしている。だが本当のことだ。


「数年後に王太子殿下は暗殺されます。そして国王陛下がその後すぐ急な病で亡くなられ国王陛下の次男であるヨルコー王子が即位するのです」


「ヨルコー王子?」


「それは無理だわ」


夫人が首を横に振る。


「わかっています。傀儡政権ですよ」


「なんとまぁ……」


「誠のことなのか?」


「はい」


「なんということだ」


おふたりとも首を横に振って眉をひそめていた。しばらく沈黙の時が流れる。


「信じよう」


何とか信じてくださったようだ。


「俺たちはこれからフランチェスコとその父バイロンを成敗します」


「バイロンを呼んだのはそのためか?わたしはフランチェスコが毎月給料からお金を送っている男がいることを知っていた。その男の名前がバイロンだったと記憶している。やつは叔父だと言っていたが父親なのだな」


「はい。父親です。やつが諸悪の根源です。スラム街のドルド峡谷のボスです」


「なんだと?ドルド峡谷の?」


先の先の公爵は苦く顔を顰める。


「どうかおじい様。お願いです。ドルド峡谷の者たちを助ける政策をとってください」


「助ける?」


「見て見ぬふりをしてはいけません。彼らの生活をきちんと見て、彼らを助ける政策を建てなければ、彼らはずっと公爵家を恨んでいます。その代表として今回の事件を企んだのがたまたまバイロンだっただけです。今僕たちがここで謀反を切っても、また生まれます。あのスラムがある限り」


ウィルバートは熱を込めて説明した。

これが解決されなければどれだけ過去を変えてもまた同じことが繰り返されるに違いない。積年の公爵家の怠慢だ。

いつか誰かが、当主が正さなければならない。


「そうか……そうだな」


「お願いします。絶対にこんな不幸を繰り返してはならないのですから」


「うむ」と先の先の公爵閣下が頷くと、さらにウィルバートが続ける。


「明日のパーティでやつらの罪を暴きます。その前に書類を見つけねばならない」


「書類?」


「はい。フランチェスコが寝ているのはどこですか?」


「使用人の部屋の一番奥だ」


このころはまだ一介の使用人にすぎなかったということだ。

一番奥なら大抵は大きな部屋だから重宝されていたのは確からしい。


「では音をたてないように注意して執務室に行きましょう。おばあ様はこのままここに、おじい様と母上とそして父上も来てください」


「わ、わかった」


突然のことにとまどっている先の先の公爵閣下だったが、それから皆して音を立てないように注意しながらこそこそと執務室へと歩を運んだ。

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