領地に戻ったら待ち構えていた事件
「大変です!ウィルバート閣下!」
次の日の午前中のうちにタウンハウスを出たふたりは馬を飛ばして領地に戻ると真っ先に飛んできたのはニアとダフネだ。
「ジャック公子様とジェニファー公女様が見当たらないのです」
「なんだと?いつからだ?」
「なんですって?」
ハンナも驚き、声をあげた。
「今朝朝食を召し上がった後でございます。家庭教師のギャレット先生がいらしたら部屋におられなくて……執事のグスタフも見当たりません」
「なんてこと……」
グスタフがさらったに違いない。
ふたりを殺すつもりか?
「ふたりが……」
ハンナはギュッと唇を噛んで、考え込むようにしている。
「申し訳ございません。このニアが付いていながら」
「わたしもです。どうお詫びをしたらよいか……」
ふたりともあまりのショックにどうしたらいいかわからないのだろう。
普段ピシッとしているはずの侍女たちだが、髪や呼吸も乱れている。
そこへヤーコンとマッキノンも血相を変えてやってきた。
「お帰りなさいませ。公子様と公女様がいなくなられたと聞きまして」
ふたりにも焦りが見える。
「いかがしますか?マッキノンをやりますか?」
通常であればそうなるが、もうスラム街の輩たちは双子をどうしているかわからない。
双子がフランチェスコの子どもではなく、フランチェスコがもう生き返らないということをバイロンは調べ上げたのかもしれない。
それを考えるともしかしたらもう殺されている可能性が高い。
ハンナも同じことを思っているに違いない。先ほどと同じように唇を噛んだままだ。
どうすればいいんだ。
「ハンナ、君が出した結論に従うよ。どうしたい?」
双子はハンナの甥っ子と姪っ子であるし、これからやろうとしていることはクロノスの加護者であるハンナ主導のもと行うことになる。
ハンナが決めるべきだ。
ハンナが顔をあげてウィルバートをじっと見つめた。
「執務室に入りましょう。双子の行きそうなところをじっくり話し合わなければならないわ」
「そうだな」
ハンナが慌てふためいたような演技をしたので、ウィルバートもそれに従った。
使用人の中にはまだグスタフ派閥の者が残っている可能性がある。その者たちの耳を断つためだ。
そして慌てたふりをして六人で執務室に入った。
「ウィルバート様。わたしの演技はどうでしたか?舞台俳優の演技を見て真似をしてみたのですけれど」
「ああ。なかなかよかったよ」
ハンナがにっと笑いながら言ったので四人はびっくりしている。
「演技だったのですか?」
「ああ。昨日演劇を見たのでな」
「ということは?」
ヤーコンは察したようだ。
「双子は大丈夫だと信じましょう」
ハンナがウィルバートに視線を合わせてゆっくりと言うと四人の方へ向いた。
「あなたたちも信じて」
「申し訳ありませんでした。わたしたちが付いていながら。わたしたちも従います」
四人が床に膝をつき頭を垂れる。
実際大丈夫なわけはない。どこかに拉致され閉じ込められ、痛めつけられているかもしれないし、もうすでに死んでいる可能性もある。だが、四人にはハンナが何か考えがあって言っていることが理解できたようだ。
なんとか四人が落ち着いたところで、ヤーコンが束になった書類をウィルバートの前に差し出した。
「フランチェスコ先の公爵閣下がプレストンの金山の密輸に関わっているという証拠の書類を見つけました。これです」
「やはりか」
ずっと疑っていたことだった。
「この部屋の屋根裏にありました。そこを金庫代わりに使っていたようです。そこからそれ以外にも大量の秘密契約の書類が出てきて、彼が先の王太子の殺害の刺客を雇っていたこともわかりました」
ちょうどウィルバートが座っている一番上座の机の上部の天井を指さした。
「それも事実だったのか」
今の国王は体が弱く、通常の業務をこなせる人ではない。
先の国王や王太子はすぐれた人物だったが、若くして世を去った。
暗殺されたのだ。
国王や王太子を殺害するとは、もう本当に悪魔としか言いようがない。
傀儡政権にして自分が実権を握ろうと考えていたということだ。
ビアンカの手紙にあった通りだな。
あんな男が国の実験を握ったら国がどうなるか……。
考えただけでゾッとした。
なんという男だ。
とてもじゃないが、
「許せないな」
それ以外にもとヤーコンが全部説明したところでは、祖父母の乗馬の事故も彼が仕組んだものの可能性が高い。
馬の興奮剤が出てきた。
本来は亡き者にしたかったのかもしれない。
「そんな場所、よく分かったな」
全くヤーコンというやつは……。
「マッキノンとわたしが傭兵出身だということをお忘れなく」
「ウィルバート閣下が家系図の細工を見つけられたのと同じやり方をどこかにしていないかと探しましたところ、天井の一枚の木があやしいとわかりました」
マッキノンの言葉に天井をいくら見上げてもどこなのかウィルバートには見分けがつかなかった。
いろんな仕事をやって来たのだろう。
本当にこいつらと出会えてよかった。
過去が変わっても必ず見つけ出してやるからな。
「とんでもない人ね」
ハンナも許せないようで目がメラメラと燃えるような怒りを含んでいる。
「ウィルバート様。絶対に!仕留めましょう」
「ああ」
ウィルバートもこの一件を聞いて迷いはなくなった。過去を変えてでもあの男を成敗する必要がある。
「何を考えておられるのですか?」
ヤーコンが少し心配そうな声でウィルバートに問う。
「ハンナ。この者たちには言っておく必要がある。今日の夜のことを話しておいてもいいな」
「はい」
ハンナのOKが出たので、ウィルバートは簡単に説明することにした。
ここで神の加護の話をしても混乱させるだけだ。
「皆。これからここを出たら慌てふためいてほしい。『どうしよう。双子を探さなければ!』と言って俺とハンナは馬で探しに行ったことにしろ。ダンとジェイに乗っていったことにするから、誰かに乗らせて一日だけ遠くに行かせてくれ。夜になったら俺たちは裏庭の井戸に入る」
「「「「え?」」」」
皆が驚きの声をあげる。




