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思わず……

ぎゅっと抱きしめる。

ずっと耐えていたのだろう。

キングスフォードの城に来て、ウィルバートに大口をたたいたときからずっと心は張りつめたままだったのだ。


「ハンナ……」


震える肩を抱いているとあまりに不憫で、もっと抱きしめてやりたくなった。

ハンナが顔をあげたその涙に濡れた瞳を見ると、もう我慢できなくなった。


次の瞬間にはウィルバートはその顎をくいっとあげるとそっと唇を寄せていた。


「え?」


ハンナが大きく目を見開く。


「あ?」


自分のしたことが信じられなかった。

何も考えていなかった。

ただ、キスしたかった。

だから知らない間に唇を重ねていた。


こんな計算も何もないキスは初めてだ。


「わ、悪い。思わず……」


あー……まずい。

遊び人という噂のあるウィルバートがこんなことをしたらきっとハンナは自分が遊びの対象にされていると思うだろう。

これはやっちゃいけないことだったのに……。


もっと大事にしなきゃならなかったのに。


「ウィル……」


唇を手で覆って放心している。


「いや、あの……君をそういう対象で見ていたわけじゃないぞ。俺は……そんな遊びとか思ってないからな」


どう言ったらわかってもらえるかと思ってしどろもどろだ。

かっこ悪い。

俺がこんな言い訳じみたことを言っているなんて……。


「遊び……」


だが、ハンナは特に怒っているようにも見えなかった。


「ハンナ?」


「え?」


改めて覗き込むようにハンナを見るとカーっと突然真っ赤になった。


「ど、どうしてわたしなんかにキスを?」


「そ、それは……だな。思わずそこに唇があったからしたくなったというだけで……」


「は?」


怪訝な顔に変わる。

いやいや、こんな言い方おかしいな。

どう言えばいいのか……。


「要はだな。俺は君が好きなんだ。ハンナ」


「え?」


さらに眉をひそめる。

有り得ないという顔だ。


「そんなバカな……」


こんなイケメンが自分みたいな普通の女を?

と思っているに違いない。


普通の女に見えるけど全然違うじゃないか。

全然普通なんかじゃない。


「ハンナは特別な女だよ」


「特別?」


「普通のその辺にいるような女だと思ったよ。初対面では。だけど違う。表情豊かで、嘘がなくて、正義感の塊だ。俺は……出会って一週間で君に惚れた」


「え?ええ?」


目を丸くしている。


「ほら、それだよ。いちいち表情をくるくる変えるのがたまらない。そんな君が好きだ。本当は今押し倒してしまいたいくらいだ」


「なっ!」


今度は驚愕の表情だ。

ああ。飽きない。すばらしいよ、ハンナ。


「この際はっきり言っておく。君は俺を何とも思っていないだろうが、俺はいつも君が好きだ。君が欲しい。俺だけを見ていて欲しいと思ってる」


告白されたことしかない自分がまさか告白する羽目になるとは思わなかった。


「本気なんですか?」


「本気すぎるほど本気だ。俺はいつでもウェルカムだ。いつでもこの胸は空いている。抱かれる気になったら言ってくれ」


「な、何を言って!」


真っ赤な顔で言うのがかわいくてたまらない。

そのままもう一度チュっと額にキスをすると離れた。


このまま抱きしめていたら本当に襲いそうだ。

自制心のあるうちに離れておかねば。


ふぅ……。

落ち着け、自分……。


なんとか高鳴る心を落ち着かせるとハンナに向き直った。


「本気だからな。よく考えてくれ」


「わ、わかりました」


思いがけない事態になってしまったが、泣いたおかげでハンナは張り詰めていたものを放出できて少しスッキリしたようだ。


ハンナの力になりたい。癒しになりたい。

そう思った。

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