かしの木
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【ハンナ、イーサン、そして両親へ
今までありがとう。ちょっとしばらく遠くへ行きます。また戻るわね。
ビアンカより】
フェイクね。
これはもし誰かが調査したときの罠だ。
本当は他に何か重要なことが書かれたものがあるはず。
次に衣裳部屋を見る。
と、恐ろしい数の衣装がかけられたままになっていた。
もう五年以上前のドレスだから形は古いが、当時の流行を取り入れたドレスだ。
「安物だな」
「そうですね」
「君の姉とは夜会で数度出くわしたことはある。このドレスを着ているのを見たことがあるような気がするな」
ピンク色を基調とした派手なかわいらしいドレス。
ビアンカが着たら確かに着映えしそうなものだ。
「そうですか……姉は夜会が好きでしたから……」
そして朝まで楽しんだ。
男たちと。
そういう生活をしていたのだ。
「あれ?」
ドレスを一着ずつ見ていたら、一着だけぼろぼろのものがあった。
「何これ」
スカートの部分に引き裂かれたような跡があるのだ。
「ひどいな。男に襲われでもしたのか?」
待って。このドレス……。
「これはビアンカが領地を出るときに父が最後に持たせたドレスです。間違いないわ。この胸の部分についているリボンが特徴的だったんです」
「このドレスだけオートクチュールに見える。ほかの安物とは違うな」
「はい。両親はいつも頼んでいる仕立て屋に頼みましたから」
「ならばここにきて初めての夜会で着用した可能性が高いな。いつ王都に出てきたんだ?」
「十六歳のデビュタントが終わってすぐです。一度領地に戻ったのですが、その後ひとりでこっちに舞い戻ってきたんです」
「六年前ってことか。その翌年にフランチェスコと結婚したんだな。確か結婚式にはすでに双子を身ごもっていたな。大きなおなかをしていた記憶がある」
「そうでしたね」
ハンナはビアンカの妊娠した姿を知らないが、双子は結婚後すぐに生まれたはずだ。
それを考えると、ビアンカが妊娠したのはデビュタントの後王都に出て半年後くらいということになる。
半年の間に奔放令嬢の名が轟くほどに遊びまくったのだろう。
そして、半年後にフランチェスコの子を妊娠した。
だが、いくら考えても解せないのだ。
ビアンカがあんな歳の離れたふつうのおじさんを選ぶだろうか?
「わたしは今でも信じられません」
「ん?」
「ビアンカがフランチェスコと結婚したことが……」
ウィルバートも同意の相槌を打つ。
「確かに君の姉はイケメンと呼ばれる男と一緒にいることが多かったかもしれない」
衣装室から出ると、お茶が用意してあったので、少し立ち止まって飲みながら窓を開けてみる。
すると目の前に大きなかしの木が現れた。
何も変わっていない。
「これがかしの木か?」
「はいそうです」
かしの木は下からだと幹が太すぎて登れないが、この窓からかしの木の枝に手が届く。そしてそこから枝を伝って木に登れる。
小さい頃ここから登っては母に怒られていた。
思わず笑みが漏れる。
「どうした?」
「思い出したんです。ここでふたりで遊んでいたころ。この木がかしの木で……この枝から伝わって登るのです。そしたら向こうに……そうだわ」
ここに登らなくては。向こうに『秘密の洞穴』があるのだ。
「ここに登りたいです」
「え?大丈夫か?子どもの頃ならいいが、君の体重で支えられるかどうか……」
「でも登ります」
絶対に『秘密の洞穴』を探さなくては。
「では、待っていろ。下で俺が待っているから。もし落下したらつかまえてやるから」
「信用していいんですね」
「ああ。いいぞ。待ってろよ」
しばらく待っていると下にウィルバートが現れた。
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