ウィルバーと視点からのビアンカの手紙1
「日記の返事はあったのか?」
「いいえ。彼女は今日からエイダン様とともに王城に呼ばれていますから帰ってくるまでは返事はありませんよ」
そうか。日記はこの引き出しでしか交流できないんだな。
「クロノスの加護者が交流できる、その手段というのは何か決まっているものなのか?」
日記でしか交流できないものなのか?
それ以外にもあるのか?
「それは書籍で調べた限りでは、日記が多いとは書いてありましたけれど、それ以外にもいろいろあるようです。たくさんあったので全部は覚えていませんけれど、要は過去の人物が使っていた同じものが現在にも存在していることが条件で、それを通じて通信する感じです」
「そうなのか……いろいろとややこしいな」
今日も会合はハンナの部屋になった。
使用人たちはどうやらふたりはできてしまったと思っているようで、お酒を運び入れるとぱったりと部屋からいなくなってくれるので助かっている。
「同じものが壊れずに残っていなければならないんです」
まぁそれは理にかなっている。壊れていたら交流できないだろうから。
こっちの部屋に来たときはハンナがブランデーを作成してくれるようだ。
座っていると目の前にブランデーが出てきた。
自分はルルナルをつくって、ソファの目の前に座る。
「夢を見たよ」
「え?」
「母が俺を産んだ時の夢だ。君が言ったように、日記から俺の中に流れ込んできた体内の記憶だろうな」
「まぁ……」
「まぎれもなく祖父母は母の父と母だった。俺の誕生を喜んでいる中、あの男は俺を抱き上げ喜んでいた」
吐き捨てるように言う。
あの夢で一番吐き気がしたのはあの男に自分があやされていたことだ。
あの時は自分の本当の息子だと思っていたようだが……。
「わかったのは、あの男は父と母にも認められた上で公爵家の婿になったということだ。何者なのかわからない。今朝ヤーコンとマッキノンにも調査をするよう言ったところだ」
「はい。わたしも母君に今、フランチェスコとフィーネ、グスタフという者がいないか、いたら気を付けるようにと日記に書き残しました。王城から戻ったら読んでくれるはずです」
「そうか。今は待つことしかできないわけだな」
「そうなりますね」
彼女はルルナルを一口ずつ楽しんでいる。
本当にルルナルが好きなのだなといつも思う。
「君はなぜルルナルが好きなんだ?」
「え?」
顔を上げた。
夜になるとすっぴんでもかまわず俺と会っているが、こんな令嬢も珍しい。
俺が今まで相手にしていた女はベッドの中でもメイクだけは取らないような女ばかりだったから。
ハンナのすっぴんはあっさりした顔だったが、よくみるとかわいらしい顔だと思う。
決して綺麗ではないが……。
というか、顔のつくりではない。この表情の豊かさが好きなのだ。
「酸味ですかね?実家ではたくさんとれたんです。だからルルナなら安く手に入るからというのもあったのかもしれませんけれど」
くすっと笑った。
「昔はよくジュースにしてビアンカと飲んだものです。昔はわたしたち仲がよかったのですよ」
「そうなのか?」
「はい。ビアンカはあんな奔放な性格じゃなくって、ふたりでいつも馬に乗って領地をかけずりまわってました。それが大人になった途端、王都に行くと言い出して、王都のタウンハウスにひとりで住みはじめてしまったんです」
「ひとりで?」
あの奔放で有名な美少女ビアンカ・ケイト・バーディナが昔は素朴な少女だったとは驚きだ。
近衛隊長をしていたころからよく夜会では見かけた女だった。
常にだれか男と一緒にいたっけ?
俺は一度も話をしたことはないが……。
「両親は何度も呼び戻そうとしましたが、聞こえてくる噂はひどいものばかりで、もう匙を投げていたんです。そしたら降ってわいたようにあなたとの縁談があると姉が戻ってきたんですわ」
「俺ではなかったがな」
「ええ。でもなぜフランチェスコ閣下と結婚する必要があったのでしょう?あんなにイケメン好きだったのに……」
確かにあの男はイケメンではないし、陰気で地味な顔だちでそういう意味でも派手な顔だちばかりの肖像画の中で目立っていた。
「イケメン好きだからあなたと結婚したというので納得したのですわ。なのにそれが実は嘘でまさかこんなに歳の離れた方と結婚するとは……さらに幸せだとずっと偽りの手紙を実家には送っていたのです」
「偽りの?」
「はい。手紙ではあなたが父だと書かれていて、双子が生まれてとても幸せにしているからこっちには何も連絡しなくていいと」
「こちらに誰も寄こされたくないからあの男が図ったのではないか?」
「そうでしょうか?」
あの男なら十分あり得ることだ。
実家が見にでも着て現状を見られたら困るから。
「それが、今年になって、急に姉からの分厚い手紙が届いたんです。それがこれです」
ハンナはクローゼットの中を開き、最初に持ってきていたトランクを開くと、中から分厚い封筒を取り出した。
「読んでも?」
「はい。どうぞ」




