乗馬ピクニック2
「乗馬が楽しかったからよ。ジャック。あなたは育ちざかりだからたくさん食べるのよ」
「はい」
ジェニファーはそのあたりの野草をひたすら摘んでいた。
こんな日常を今までに自分は過ごしたことがなかった。
母とはほとんど交流させてもらえなかったし、あの男とはずっと折り合いが悪かった。
考えるだけで腹が立つ。
平和な日常を知らなかったのは全てあの男のせいだと思うと腑が煮えくり返ってくる。
「ウィルバート様もどうぞ」
ハンナが紅茶を紙でできたカップに注いで渡してくれた。
使い捨て用のカップだ。分厚い紙でできており少しの時間なら水を通さない。
「ありがとう」
飲んでみて美味しいと思った。
心が洗われるようだ。
そんなのどやかな昼下がりを過ごし、ゆっくりと城に戻る。
疲れたのかジェニファーはダンの上で眠りそうになって何度もカクンカクンと船を漕いでいる。
城に到着すると双子は疲れて本当に眠そうにしており侍女たちが連れて城に戻っていったので、ハンナとともに厩舎を見て回ることにした。
「これがロードでこれがネリーらしいです。父と母の名ですわ」
「へえ」
本当にビアンカは家族の名前を馬たちにつけていたようだ。
「そしてこれがイーサン。弟です」
そして自分が出奔するときに使った一番走るのが速かった馬が、ハンナか……。
「それ以外の馬も全部、領地の友達や親戚の名ばかりなんです」
よほど家族が恋しかったか、家族に対して罪悪感があったか……。
「ハンナ。では君が乗っていたそのジェイという馬は誰なのだ?」
自分が一番大切にしていた馬だ。自分に近しい者の名であろう。
「え?」
だが、ハンナはキョトンを目を大きく見開きウィルバートを見た。
「誰でしょう?」
「え?」
「気付かなかったわ。自分が乗っていたから……。そうだわ。ジェイ。ジェイ?ジェイって誰なの?」
ぶつぶつと独り言のように呟いている。
「思い当たらないのか?」
「はい。ジェイなんて何かの名前の略というかニックネームかもしれない。けれど、いないわ。そんな名前の人は……」
どういうことだろう?
この馬だけ名前の主がわからない?
自分が一番大切にしていた馬なのに?
「姉が大切にしていた人が他にも誰かいたということですよね」
考え込んでいたハンナがつぶやくように言った。
「そうかもしれないな」
「もしかしたら何か意味が……」
じっと考え込んでいるハンナの顔を観察する。
やっぱり好きだ。この顔が……。
「恋人……とか?」
思いつくままに言ってみた。
若い女がつけるニックネームのような名前であれば、昔の恋人くらいしか思いつかなかったからだ。
「え?」
ハンナが驚いたように見返す。
「君の姉、ビアンカは素行が悪かったというのは有名な話だ。恋人は何人もいただろう?その中に本当に好きだった男がいたんじゃないのか?」
「そう……かもしれませんね」




