思い当たった真実
「あの……。エイダン・フィリーズという方をご存じですか?」
思い切ってウィルバートに聞いてみることにした。
気軽に何か知っていたらラッキーだと思って聞いただけだった。
だが、予想外に驚いた顔でウィルバートはルルナルを作ってくれていた手を止めた。
「ハンナ?」
そこまで驚かれると思っていなかったハンナは逆に目をまるくした。
「え、えっと、この間のパストラルにフィリーズ家の紋章が。それで店員に聞いてみたところ、エイダン近衛騎士団長がよくいらっしゃると言っていたもので……」
「ああ……」
そしたら普段の表情に戻りルルナルをかきまぜて手渡してくれた。
「君は最近よく図書館にいると聞いたが……。何を調べている?」
「え?」
ばれていたか。
そりゃまぁ……図書館の職員から報告は行っているだろうけれど。
「キングスフォード家の家系図など調べました。お世話になっているお宅ですから調べて当然だと思います。王国の歴史書にも載っていることですもの」
「家系図か……。俺は父の息子ということになっているだろう?」
自分のブランデーを注いでいたウィルバートはくるりと向きをかえると、その日はめずらしくハンナの隣に腰掛ける。
「はい。家系図では」
近くにガウン一枚のウィルバートがやってきたのでドキリとする。
シャンプーの香りも漂っている気がする。
まずい状況では?
そのうち耳に口を近づけてきた。
え?な、なに?
「だが、本当の父親は、君が今言ったエイダン・フィリーズだ」
え?
キスでもされるのかとウィルバートが近いことにドキドキしていたハンナだったが、それどころではなくなった。
「なっ!」
開いた口がふさがらなかった。
「母が父と結婚する前に付き合っていたらしい。俺をお腹に宿したまま母は父のもとに嫁いできたのだ。そして俺が生まれた。俺は母が死んですぐにプレストン王国に留学していたんだが、その時にエイダン・フィリーズが自分が本当の父だと俺に会いに来た。母を愛していたと……」
待って?
もしかして……?
今まで胸の奥でくすぶっていた違和感が消失していく。
わかった。
意味がわかったわ。
パズルの抜けていたピースが埋まってようやく形になる。
そうだ。
なぜ今まで気づかなかったのか。
「お待ちください。ウィルバート様の母君はどこから嫁いでこられたのですか?」
家系図にはそれは載っていない。そこまではわからない。
「キングズフォードの分家だと俺は聞いてる。父からはそう聞かされた」
やはり母君からは何も聞いていないのね。
「失礼ながらウィルバート様と母君は小さい頃は仲睦まじく過ごされていたのですか?」
「父が母とはあまり会わせてくれなかった。今の双子みたいなものだ。父はそういう主義だったんだろう」
「ウィルバート様のおじい様とおばあ様がお亡くなりになったのはいつですか?」
「俺が生まれてすぐらしい。俺には記憶がない」
ああ。やはり……。
「わたしの推理が正しければ……ウィルバート様はとんでもなく大きな間違いをしておられます」
「は?どういう意味だ?」
ああ。なんてことだ。こんなにもわかりやすかったではないか。
あの肖像画が並びたてられた廊下。
あそこで感じた違和感。
そしてあの家系図の斜めに伸びた線
あれがすべてを物語っていたというのに。
けれど、二十六年間信じ続けていたことを今ここで部外者のハンナが言ったところで信じてもらえるかどうか……。
そうだわ。
「ウィルバート様。明日の夜はこの会合。わたしのお部屋でやりませんか?」
そう言うとウィルバートはにやりと笑った。
「それはいい誘いと思っていいのか?」
さらりと髪を手櫛で書き上げられて、ぞくっと背筋に何かがはいあがる。
「そ、そういう意味ではありませんっ!見せたいものがあるのです」
「見せたいもの?」
「はい。今から移動すると目立つので明日まで待ってください。そして覚悟して来てください。ウィルバート様の人生が変わるかもしれないような出来事があるかもしれません」
曖昧な言い方をしたがウィルバートは詳しくは聞こうとせず肩をすくめた。
「ハンナが言うならそうなのだろう。いい。じゃぁ明日は君の部屋に行こう。入念に体を洗っておけよ」
「だからっ!」
真っ赤な顔で怒るとウィルバートはくすくすくすと笑っていた。
その夜部屋に戻ってから日記に何やらハンナは書き足した。
そして少し満足したような顔で眠りについた。




