図書館で調べもの
次の日からジャックの馬術の授業が始まった。
ウィルバートがすぐに見つけてくれたのだ。
マッキノンの知り合いに馬術を教えている人がいたらしい。
マッキノンは本当に有能だ。
ハンナもその授業に出たいくらいだったが、そこはプロにまかせることにしてその間ジェニファーと一緒に公爵家の図書館へ出向くことにした。
さすが我が国一番のキングスフォード公爵家。図書館はとても大きく、王城に次ぐものらしい。ハンナはどちらかというと身体を動かす方が好きで、書籍が各段好きというわけではなかったが、嫌いではなかった。
小さい頃はよく童話や物語を読んで過ごしたものだ。
ジェニファーはどうやら書籍が好きらしい。
あの姉の子どもなのに珍しいことだ。
ビアンカは書籍とはまったく縁のない人生を送っていたのだから。
図書館に着くとまずは子供向けの書籍棚へと一目散に向かっていく。
「すごーい!いっぱいあるわ」
アメジスト色の瞳がキラキラと輝いている。
「ずっと来たかったの?」
「うん。けれど、こんな下世話な本は読んじゃダメってフィーネが言うから」
「下世話?」
なんてことを言うのだ。子どもは童話を読んで大きくなるものなのに。
返す返すもひどい侍女だ。
フィーネとはいったい何者なのだろう。
「読んでもいい?」
「ええ。好きなだけ読んでいいわよ」
「わーい」
ジェニファーはキラキラ目を輝かせて本を物色しはじめたので、ハンナは別の場所を見て回ることにした。
本当にいろんな書籍がある。
ロズウェル王国の歴史本から魔術の話まで。
ウィルバートのアレスの加護が気になったので、加護についての本を手に取ってみる。
ジェニファーの前に座ってページをめくるとあった。
【加護とは?】
ページをめくっていく。
【この世には神の加護を受けた人物が現れることがある。同じ神の加護を受けた者は同時に存在し得ない。ただひとつの例外を除いては。加護は通常十歳を超えてから受けることが多く、持っていた加護が消えることもある】
例外?なんだろう。
その下には加護の神が羅列されていた。これがすべてではないとは書いてあったが、いろいろな神がいるものだと思った。
風の神、大地の神、木の神、花の神……。
へぇ……。
時の神、空の神、雷の神……。
本当にたくさんいらっしゃる。
一番上に全知全能の神『ジニアス』が大きく太い文字で書かれていて、そのすぐ下にたくさんの神々が羅列されていたがアレス神は一番上にあった。
やはりこの神は特別なのだろう。
【軍神アレスの加護を得た者は戦いにおいて絶大なる力を得る。
彼が戦うときアレスは常に彼を助ける。
ただし、彼が正しからざる時、アレスは怒り彼を見放すであろう】
そうか、神の加護者も過ちを犯せば神は怒り見放されるのね。
【通常加護を持つ者を授けるときは、その者が世に必要だと神が判断したからである。それゆえその者には生きる使命がある。神が選びし者であるので通常は神の怒りを買うような人物は選ばれない】
神は間違えないということね。
「ハンナおばさま。ここなんて書いてるの?」
目の前で『小さな女神様』という童話を読んでいたハンナだが、わからない文字があったらしい。
「ああ。それはアフロディの花よ」
「なあに?それ」
「小さな親指くらいの王女様が生まれたお花ね。そのお花は誰も見たことがないの。そのお話の中にしか咲かない花よ」
「へえ……見てみたいなぁ」
この童話は昔から王国で読まれているポピュラーなものだ。
アフロディという架空の花から生まれた親指くらいの大きさの王女様のお話。
誰でも知っているものを知らないなんて。本当に子どもが本来するべことを何も教えてもらわなかったのね。
酷い育て方をしてくれたものだわ。
ジェニファーは想像力が豊かな子だ。
庭にいる動物たちを見てもいつもいろんなことを考えているのがわかる。
素敵な子だ。
もっと感受性を伸ばしてあげなければ。
ふとジェニファーの手首を見て気づいた。
「あらこのほくろ、このお花と似てるわね」
「あー。ほんとだ」
ジェニファーの左腕の内側に小さな赤いほくろがあるのだが、童話の中のアフロディの花と形がよく似ている。
ジェニファーは嬉しそうに鼻を擦った。
「アフロディだわ」
「そうね」
時計を見るともう四時だ。時間が経つのは早い。
「そろそろ行きましょうか。ジャックの授業が終わるころよ」
「え?もう?」
「おやつの時間よ」
「あ、行く~」
食べ物には弱いジェニファーである。




