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ホールにある大きな階段をあがった二階の大きな柱に隠れるようにしてこちらを見ている。
小さな背丈の金色のキラキラの髪。
「まぁ!あなたたちおいでなさい」
少し声を張り上げて、そちらに向かって手を「おいでおいで」とジェスチャーした。
ふたりはお互いに顔を見合わせており、相談しているのかこそこそと話している雰囲気がうかがえる。
「大丈夫よ。わたしはあなたたちのお母様の妹、あなたたちのおばさまよ。あなたたちを迎えに来たの。一緒に帰りましょう」
ふたりはもう一度顔を合わせると、おそるおそる周りを見ながら階段を降りてくる。
そして階段を降り切ると、足を止め、ふたりでまた顔を見合わせて手をつないでからゆっくりと近づいてきた。
五歳になるはずのその男女の双子はふたりともプラチナブロンドでアメジスト色の瞳をしており、姉と同じでとてもイケメンと美人だった。
「あの……。ぼくたちのおばさまなのですか?」
男の子のほう、ジャックが口を開いた。
「ええ。そうよ。お母様がいなくなってさみしかったでしょう?これからはおばさまがお母様ですよ」
子どもの視線になるようにかがみこみ、ハンナはふたりの頭を撫でた。
ビアンカの忘れ形見。
こんな情けのない父親のもとで暮らすよりわたしが育てる。
今年二十二歳になった時点でもう結婚はあきらめた。
それならこの子たちの母になろう。
大変だろうけれど、ビアンカの遺言なのだ。
絶対に育てて見せる。
「は、はい……」
だが、なんだかふたりは歯切れが悪そうだ。
窺うように視線を向けているのは父親のウィルバートの方だった。
やはりこの男が虐待しているのではないのか。
キッとそちらに視線を向けたところで、ウィルバートは「やれやれ」というふうに肩をすくめた。
「わかった。ハンナ嬢とやら。ならばこうしよう」
どうするというのだ?
「好きなだけ滞在してこの子たちを育ててくれ」
……。
「は?」
しばらくの沈黙の後ハンナは素っ頓狂な声をあげた。
「わたしは引き取りたいと言っているのですが……」
「俺は引き渡さないと言っている」
「どういうことでしょう?」
「言葉通りの意味だが?俺は引き渡したくない。ハンナ嬢はこの子たちの母になりたい。ならば簡単ではないか。ハンナ嬢がこちらに引っ越してくればいい」
「……」
理解するのに少し時間がかかった。
要は、この男はこの城に住み込みでこの子たちの親代わりをしろといっているのか?
「今母になりたいと言っただろう?」
にっこりと笑ってウィルバートは付け足すように言った。
「それはそうですけれど……」
「ならば母替わりになってくれれば俺も大いに助かる。俺は王都に行かねばならないこともあるのでね」
「ですが、実家を置いておくわけにもいきません。先ほど申しましたが、父が腰を痛めまして、弟は国境の町にいますのでわたしがいないと家が……」
「それならうちから人をやろう。警備の者が足りないなら警備隊として人を貸す。弟が家のことをできるようにな。ついでに君には三食と生活費付きでどうだ?」
「……」
なんだか丸め込まれているような気がする。
「おい。ヤーコン。バーディナ伯爵家に早馬を!ハンナ嬢が母替わりとしてこちらに長期で滞在されると。そして至急兵士の中から人を十人都合して向かわせろ」
「はいっ」
なんだか、瞬く間に決まってしまった。
「よかったではないか。これでお前の姉の思った通りだ。部屋は姉の部屋を使うといい。そのままにしてある」
「わ、わかりました」
使用人たちが馬車から荷物を運びこんで来るのを見ながら、なんとなく腑に落ちない気分がまとわりつく。
まぁでもひとまず双子と一緒にはいられる。
今はよかったということかしら?
双子とのコミュニケーションを図るには環境を変えない方がいいかもしれない。
いい様に考えることにしてビアンカは当分ここに腰を下ろしてみることにした。
だが、この時はこれからここでどんな生活が待っているか、想像だにしていなかったのである。
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