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「あ、あの……。姉との縁談はそちら様が望まれたと聞いております。それなのに五年間ほうっておいた挙句、子どもたちを渡せないとはあまりに理不尽な……」
姉のビアンカとは二卵性の双子の姉妹である。
妹のハンナは栗色の髪にエメラルドの瞳でごくごく一般的なふつうの顔だち。背も低くこじんまりしており、家庭的なことが好きなタイプだ。
だが、それに対し、ビアンカはきれいなプラチナブロンドの髪、そう今目の前にいるこの男のように輝く髪に整った派手な顔だちをしており、ただエメラルドの瞳だけがハンナと同じだった。
本人も派手なことを好む性格で、領地には住まわず、王都のタウンハウスに居を置き夜会などでは奔放に振る舞っていた。
その容姿が気に入られたのかロズウェル王国一と呼ばれる目の前にいるキングスフォード公子の目に留まり、ぜひにと望まれ結婚したはずである。
バーディナ伯爵領は王都からかなり離れた辺境の地にあり、ベリード国との国境に隣接しているため警備も大変なのでほとんど領地を離れられない。そんな辺境の地から王都に隣接したキングスフォード公爵領まで片道五日もかけて嫁に来たビアンカとはその後疎遠になり、数か月に一度ほどとりとめのない内容が書かれた手紙が届くだけだった。
だから、つい一か月前にビアンカから恐ろしい内容の手紙が届くまではうまくやっていると思っていたのだ。
その時はじめて、ビアンカが生んだ双子は五年間一度も父に会ったことがなかったということを知った。
その父こそが目の前にいる男『ウィルバート・アドルファス・キングスフォード』である。
ビアンカからの手紙が届いたその後すぐに前キングスフォード公爵、すなわち目の前の男ウィルバートの父親が亡くなったという報せが届き、その後この男がキングスフォード公爵を引き継いだのだ。
確かに、このウィルバートという男は王都の近衛兵を率いる近衛隊長であり、ずっと王都に詰めている人間だった。だが、子どもと会ったこともないなどとは流石に思わなかった。
王都でも浮名ばかりを流しているという噂をよく聞いたので姉は大丈夫なのかと心配していたこともある。だが、ビアンカ自身も同じように独身の頃から浮名を流していたため、その辺はうまくやっているのだろうと勝手に思い込んでいた。
だが、そうではなかったようだ。
目の前の男は、冷たくもわが子を突き放すように「情はない」と言い放つではないか。
「理不尽だと思われる方が理不尽だが、勝手に思うがいい。だが、そういうことだから帰ってくれ」
シッシッと追い払うように右手を払うと、ウィルバートはそのまま踵を返し屋敷に戻ろうとした。
(なんなの。この男!)
ハンナはだんだん腹が立ってきた。
何を考えているんだろう。
ちょっと顔がいいからって、なんでも許されると思ってるの?
「ちょっと!待ってください!」
「は?」
小走りでウィルバートに追いつくと、ハンナは男の右手をぐいっと引っぱった。
さすがに小さな女にそこまでされるとは思ってなかったのだろう。ウィルバートは驚いたように目を大きくしている。
「絶対に連れて帰ります。ダメだとおっしゃるのならいいとおっしゃるまで居座るだけです!」
「は?お、おいっ!」
ハンナはそのまま下からウィルバートを睨みつけると、スタスタと城の中に入っていった。
あわてて、連れてきた護衛騎士と侍女が後ろから着いてくる。
話し合う気もないのなら、強硬手段に出るまでよ。
城に入ると、待ち構えていたように執事らしき年配の男性がおろおろと出てきた。
「あの……。ご客人様」
「待て!待てといっているだろう!」
ウィルバートが後ろから追いかけてくる。
「ちょっと。そこのあなた!双子のジャックとジェニファーのいるところまで案内して」
「あ、あの……」
若い侍女に命令口調で言うと、しどろもどろに口をパクパクしている。
「おいっ!俺の話を聞け」
「どこにいるの?彼らは、虐待されているのではないでしょうね」
「め、滅相も……」
と、視線を上に向けたところに窺うようにこちらを見ているふたりの視線を感じた。




