神の加護持ち
この世界には神の加護を与えられし者がいる。
大陸では万物に神が宿ると言われており、それは大地の神であり、軍神であり、愛の女神でもあり、知の神でもあり……あらゆる神が世界に存在し、その加護を持つ者が数万人にひとりほどの割合でいるのだという。
加護を持つ者はその神の特性に特化した能力を持つ。例えば、軍神アレスの神の加護を持つウィルバートのような者は、戦争などで無双できたり、剣術に長けていたりとその分野で超人並みの能力を発揮できるのだ。
高貴な貴族に多いとされる。
「加護を持つ方はほとんどが高貴な貴族の方です。ウィルバート閣下がアレス神の加護をお持ちなら生まれは高貴なはずです」
「まぁ……世間ではそう言われているが……とにかく俺は公爵家を継ぐ資格はないんだ。だから双子には早めに爵位を譲るつもりだ」
淡々と続ける。
「え?」
「双子が成人すればすぐにな。俺はそれまでのつなぎでしかない」
「ま、待ってください」
なぜかそれは違う気がする。
いや、ウィルバートはキングスフォード公爵家の血をひいていないと本人が言っているのだ。
だが……。
「とにかくそういうことだ。だからそれを知っておいてもらおうと思ってな。これから君は双子を育ててくれるようだから、どちらでもいいが将来公爵になるようにきちんと教育してくれ」
「そ、そんな……」
ウィルバートが公爵ではないというのがなんだか違う気がするのだ。
こんなにも公爵という地位にふさわしい男はいないというのに……。
「あのっ!」
「なんだ」
そろそろデザートも食べ終わる。
食事が終わってしまうではないか。
「こういう時間が必要です」
「は?」
この家はおかしいのだ。使用人が何か隠しているような気がすることも。姉が双子と会えなかったということも。
漠然とした違和感がずっと胸の奥でくすぶっている。
「一緒に酒を飲みたいということか?」
「そうではありません。毎日少しでいいのでふたりでお話できませんか?」
「俺に君を口説けと言っているのか?」
「違いますっ!」
思わず大声を出してしまった。
口説くなんて言うから顔は赤くなっているに違いない。
「双子の教育をしていくにあたり、ご相談などしたいのです。毎日いっぱい聞きたいことが出てくるので」
本当は部屋に押しかけたいところを毎晩我慢しているというのに。
「わかった。では毎日口説いてやろう。食事が終わったら部屋に来てくれ」
「だから違いますって!」
「口説くということにしておかないと部屋には呼べないからな」
「ですからっ!」
「知ってたか?」
突然座っていたはずの前の席から立ち上がりテーブルの上に乗り出すとずいっと顔を近づけてきた。
イケメンが近づいてくるだけでドキッとしてしまう。
やめて欲しい。
「今日も君は俺に口説かれていることになってる。だから使用人は誰も近づいて来ない」
「え?」
驚いて顔を上げるとウィルバートのにっこりとした憎たらしい笑顔がそこにあった。
「だから、口説かれにくるなら毎日話を聞いてやってもいい」
もう!
「わかりましたっ。ではそれでいいです。毎日部屋に行きますからね!」
口説かれるとか……言ってられない。それより聞いておかないといけないことの方が多いんだから仕方ないわ。
ウィルバートがぷりぷり怒ったり、考え込んだりしているそんなハンナを楽しそうに眺めていることに、その時ハンナは気づいてはいなかった。




