剣の達人
「何か用か?」
双子は演武場に入った途端に背筋が凍り付いたように動かなくなった。
ハンナも双子と同じくらい剣士たちの気迫に凍り付きそうになったが、何とか耐えている。
「ジャックとジェニファーに見学をさせようと思いまして。お邪魔でしたか?」
今日は演武場を見たいと双子が言うので、昼下がりに連れてきたところだ。
前回ここに来たときはウィルバートが王都に出張中だったから彼がいるときに来たのは初めてだ。
あの時でも十分剣士たちの練習には迫力があったが、ウィルバートがいるだけでこうも違うのかというほどの気迫を感じる。
「ああ。練習にははっきりいって邪魔だ。だが、双子は公爵家の後継ぎだからな。いいよ。見学していけ」
「は、はい」
ウィルバートの言葉にジャックが返事をしたのは今までで初めてだった。
ここにきて一週間ほどになるが、今まで双子とウィルバートがまともに会話をしているのを見たことはない。食卓にいてもお互いに目も合わせず無言だった。
ウィルバートも少し驚いたのか、ジャックをじっと見ている。
「ようやく返事する気になったか」
「い、今までもしたかったですが、フィーネがしてはいけないというので」
え?
その言葉に驚いてハンナはジャックの方へ視線をやったがそれはウィルバートも同じだったようであわてて彼を見ると、眉間に皺を寄せている。
「ほう。そうか。まぁいい。ではそこに座っていろ。絶対に動くなよ。ハンナ嬢」
「はい」
「ふたりを動かすんじゃないぞ。たとえ木刀でも振り回しているときは危険だ。当たれば死ぬと思え」
「はいっ!」
ハンナが返事する前にジャックが返事していた。
そういえばジャックは剣術の稽古はしていたはずだ。カリキュラムの中に埋め込まれていた。
だが、この演舞場ではなく別の場所でしていたしていたはずだ。
いったいどこでしていたのだろう?
三人でウィルバートが指定した演武場の隅っこの木の長椅子に座ろうとすると剣士たちは一斉に練習をやめてこちらに敬礼してきた。
「公子様、公女様。ご視察ありがとうございます」
す、すごい。
ウィルバートの指揮力って本当にすごいのね。
この間見た剣士たちと全然違う。
統率がとれているわ。
そして練習を見て剣士たちの気迫に驚いた。
最初の時に会ったあのフランクな感じは全くない。目は真剣そのもので、頭の先から足の先まで神経を研ぎ澄まし、集中している。
すごい。
そんな中、さらに最後の方でウィルバートが出てきて、剣士の中の一番強そうな者と手合わせをしているところを見て、あまりのことに気絶しそうになった。
ジェニファーは気にやられたのかハンナの膝につっぷして気絶したように眠ってしまっている。
ジャックは耐えていたが、額から汗が出ていた。
ハンナも同じだ。額の汗が噴き出るのがどうしようもない。
初夏だから暑いといってもここまで普通は出ないだろう。
剣を振ると、木刀であるはずなのに剣筋が赤く光ったように見え、空を切っているだけなのに斬撃が相手の剣士に向かっているのか、相手は後ずさりする。さらにその速さと言ったらほかの剣士とは桁違いだ。
噂は本当だったのだ。
この人は本当に剣の達人だ。
バーディナ家が ベリード国との国境にあるため実家にも騎士団があったから今まで剣をふるう人はたくさん見てきたが、こんな人見たことがない。
もしかしてこの人は……。




