日記への返事
え?
これは?
引き出しを開けて何か違和感を感じた。
日記の向きがおかしいのだ。
わたし、反対向きに入れたかしら?
ハンナはきっちりとした性格で何でも整理整頓してしまうタイプだ。
だからこんな無造作に、しかも上下逆に日記をしまい込むなんてありえない。
昨日はいろいろあって注意力が欠けていたのだろうか?
そうかもしれない。
まぁいいかと日記を手にとり、その重厚な表紙を開いて、そしてページをめくってびっくりした。
何か書き込んであるのだ。
え?
鍵がもう一個あるの?
誰かがここを開けた?
恐る恐る内容を読んでみた。
【六月二十一日 雨
明日、プレストン王国から使者が来られるそうで城中が大騒ぎ。お父様は使用人たちに厳重に警備をするよう伝えておられたわ。
わたしにとってはどうでもいいのだけど。でも両国の友好のためにはとても重要なことらしいわ。国王陛下もいらっしゃるっていうし、舞踏会も我が家で開催するらしくて、当然出席しなきゃならないみたいだし、仕立て屋が持ってきたドレスの腰のサイズがおかしいといって直前にお母様が手直しさせていて、かわいそうだった。わたしまたスリムになっちゃったのかしら?ちゃんと食べてるのに。あーあ。早く終わらないかなー】
というとりとめのない日記が書かれていて、その下にまた同じ書体で続きが書かれている。
【わたしの日記に割り込んできたのは誰?理解し難いメモ書きまで挟んであったけど。双子って誰のことかしら?マンドルはラヒ草が好きだから今度あげてみて。あと、フィーネって侍女なの?同じ名前の知り合いがいるわ。あなたが誰なのか知らないけど、自己紹介をお願いするわ】
何これ……。
自己紹介って。
日付は同じ。けれど天気はちがう。
しかもプレストン王国の使者って何?
プレストン王国はロズウェル王国の隣にある国でこのキングスフォード公爵領と王都に隣接している。ちょうど同じくらいの国力の国で、友好が保たれていたが、ここ十数年は国交が悪化している。
使者が来ることなんてありえないだろう。
ハンナに対して「誰?」と聞く前に自分が名乗れと言いたい。
誰なの?
この城の中で自分を快く思っていない者の仕業だろうか?
使用人も鍵を持っている?
この机は最初からここにあったものだ。
使用人が持っていてもおかしくはない。
だが、快く思っていない者がこんなあからさまに日記を読んだ後返事みたいな日記を書くだろうか。
日記を見たいならこっそり見るはずだ。
この日記の主が何を考えているのか、誰なのか、わからないから泳がせてみることにした。
【六月二十二日 晴れ
今日は双子と乗馬をした。とても楽しかった。ジャックは乗馬の才能があることがわかったのでウィルバート閣下にお願いしたら乗馬の先生を探してくれることになったわ。きっと彼はすごく上達するでしょう。乗馬好きの叔母が言うのだから間違いないわ。明日は演武場に行ってみましょう。フィーネは双子の担当侍女からはずすことができた。かわりにダフネというとてもいい侍女がついてくれてほっとしたわ】
そこまで書いてからその下に大きく離して付け加えた
【誰かと聞くならそちらからまず名乗るのが礼儀では?ちなみにプレストン王国とは今国交が悪化していて、使者が来るなんてありえないはずよ。あなたこそ自己紹介をお願いするわ】
そこまで書いて丁寧にきっちりとまっすぐ日記を引き出しに入れて鍵をかけてしまいこんだ。
さあ、どうなるか……。




