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乗馬体験3

ネリーは調子に乗ってきたのか少しトロットしはじめたが、ジャックは見事に乗りこなしているではないか。

もしかしてこの子は乗馬の天才かもしれないわ。


「ヒュイ。ジャックは乗馬をする必要がありそうね」


「はい!お見事でございます!」


ヒュイも興奮している。


そのままジャックは何週も回ってからネリーから降りると、ネリーにねぎらいのニンジンをやっていたが、ネリーはもう完全に懐いている。


「一月ほど乗馬をすればロードにも乗りこなせるかもしれません」


「ロード?」


「はい。厩舎で一番足の速い馬です」


ロードって……お父様の名前だわ。


「ねぇ。この厩舎の馬の名前は誰がつけているの?」


「奥様だと聞いています。厩舎は奥様のものでしたから。先の公爵閣下は足がお悪かったので乗馬はされませんでしたので」


「足が?」


「はい。日常生活に支障はなかったのですが、運動をすることはできなかったそうです。僕も詳しくは知らないのですが……」


「もしかしてイーサンっていう馬もいる?」


「あ、はい。あの馬です。まだ仔馬ですが、奥様が出奔される少し前に産まれまして奥様が名づけられました」


家族の名前を馬に?

イーサンは弟の名だ。

そのあとも他の馬の名前を聞くと、皆、バーディナ領での友人たちや使用人たちの名ばかりだった。

もしかしたらビアンカは故郷を懐かしく思っていたのだろうか。

だから自分が管理できる厩舎の馬たちに家族の名を……?


領地を出ていくときはあんなに皆を馬鹿にしていたのに、こんなところに家族の名前をつけるなんて……。

何してるのよ……ビアンカ。


「そういえばハンナという馬はいないの?」


「あ……ハンナは……えー……すみません」


ヒュイはぺこりと頭をさげた。同じ名前なので呼び捨てにしたことを気にしてのことだろう。


「奥様が出奔された際にハンナに乗っていかれまして……そのまま……一番体力のある足の速い馬でしたので……」


「そう……」


一番体力のある足の速い馬にハンナと名をつけるなんて。

そしてその馬でどこかに消えてしまったと。


どこに行ったのか……。

死んだとはいえ、遺体が見つかったわけではない。

ただ、春の嵐の夜に忽然とこの城から姿を消したという。


そしてその一週間後に先の公爵フランチェスコ公爵の死が発表された。

突然の病死だという話だった。


その後ドタバタと息子であるウィルバート公爵が後を継ぎ、この領地に帰ってきて、ハンナがここにやってきたのだ。

ハンナはその後も厩舎を見回っていたが、一頭黒い馬がいた。

とても美しく黒曜石のように鬣が輝いている。

これは並みの馬ではないわ。


「この馬は?」


「あ、こちらは閣下の馬でダンといいいます。閣下が戻られたときにこちらに……。あと向こうの厩舎には兵士たちが乗るための戦闘用の馬がおります」


そうか。ビアンカが管理していたのは先の公爵の時代。

ウィルバートが来てからはウィルバートのものだもの。

ビアンカの管理下の馬をそのままにしておいてくれていたということね。

ふつうは売り飛ばしたりするものなのに……。

なんだかんだ言ってもウィルバートはいい人なのかもしれない。


「おばさまぁ。ねぇジェニファーも乗りたいな」


ハンナの足をつんつんしてきたジェニファーにはっとした。

ジャックはすっかりネリーとの乗馬に夢中だ。

ジェニファーにはまだひとりでの乗馬は厳しいだろう。


「じゃぁ一緒にジェイに乗りましょうか?」


「いいの?」


「ええ。いいわよね。ジェイ」


すりすりと鼻をすりつけて答えてくれたジェイにジェニファーとふたりで乗って、ジャックに並ぶ。


「ハンナおばさま」


ジャックが少しばかり得意気に見える。


「ジャック。どう?乗馬をやってみる?」


「はい。やってみたいです」


「じゃぁ先生を探すわね」


「はい!」


そのままのどやかな昼下がりの乗馬を楽しみ、その日はへとへとに疲れ果てたふたりである。

ハンナも久しぶりに乗馬をして楽しく一日を終えた。

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