新しい侍女
「そうだな。誰かいい人材はいないか?ヤーコン」
「双子の侍女ですか?」
次の日の朝食後にウィルバートの執務室に出向いて昨日あったことを話した。
今フィーネの代わりを探してほしいと頼んだところである。
「そうですね。既婚者がよろしいでしょうか?」
「どちらでもいいけれど、子どもが嫌いな人でなく、侍女の仕事を淡々とこなせる人がいいわ。自分の意見を通そうとしないね」
「独身でもよろしければ手配はできそうです。マッキノンを使いに出してすぐに呼び立てすることもできます」
「すぐに来られるなら有難いわ」
どうやら本当に今からすぐに来られるらしい。
ヤーコンが選ぶ者なら信用はできそうだと思いながら待っていると、やってきたのはヤーコンとよく似た薄茶色の髪のダフネという女性だった。
ちょうどハンナくらいの歳に見える。
「わたしの妹、ダフネです」
「まぁ。どうりで。似ていると思ったわ」
「よろしくお願いします」
静かにたたずむその姿は侍女にぴったりだ。
感情豊かな侍女は困るのだ。
「今年十八歳になります。仕事を探しておりましたが、こちらでお雇いいただけるならそれほど喜ばしいことはございません」
ヤーコンは信用できるウィルバート腹心の部下だ。
ヤーコンの妹なら信用できるとハンナは直観的に思った。
妹も一緒に公爵家に仕えてくれたらそれほどいいことはない。
「では早速仕事をしてもらえるかしら?」
ハンナはダフネを双子の部屋まで連れて行くと、午前中の授業をしているところだった。
今日来ていたのはギャレット先生で、マナー講師だ。
これからじっくり講師についても見直していかなければならない。
こちらが方向性の変更を伝えて、飲んでくれる場合はいいが、そうでない場合はクビにするしかない。
「ギャレット先生。今後は双子の教育に関してはわたしが纏めることになったの。ハンナ・バーディナといいます。よろしくね」
手を差し出すと、驚いたように目を見開きつつ、淑女の礼をとり手をとってくれた。
「ハンナ嬢。申し訳ございません。わたしは先の公爵閣下よりおふたりの教育を任された者。お亡くなりになられてからはフィーネ様が後を引き継がれたと聞き、フィーネ様のご指導のもと教育をさせていただいていたのですが……」
「フィーネは外れることになったの。今後はこの子たちの叔母であるわたしがまとめます。公爵閣下からの任命書もあるわ」
今朝ヤーコンより渡された任命書を見せると、ギャレットは確認して頷いた。
「かしこまりました。では、ハンナ嬢。どうすればよろしいですか?」
これでわかった。
ギャレットは先の公爵に洗脳されていた者ではない。
ただ、従順に雇い主に従うというだけの者。
新しい方針を伝えればそのように教育してくれるだろう。
ジャックには紳士として、ジェニファーにはレディとしてはずかしくないマナーを身に着けさせればいい。
それ以上の教育は無意味だ。
「ふたりには最低限の貴族としてのマナーを望みます。子どもらしく育てたいので、時間も短縮をお願いするわ」
「かしこまりました。ではただちに変更いたします。スケジュールを明日までに纏めて参りますので、今日はこれまでにさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「お願いするわ」
ギャレットが「失礼します」と部屋を去ると、双子にダフネの紹介に入った。
「ジャックとジェニファー。これからはこの者がふたりのお世話をしてくれるわ」
「え?」
ただでさえ、授業がなくなってどうしたらいいのかわからずそわそわしていた双子だったがフィーネが朝から部屋に来ず、別の侍女が来ていて戸惑っていたところだった。
「フィーネは?」
「ふたりの侍女を辞めることになったの」
「本当?」
「ええ。本当よ」
それを聞いてジェニファーの顔が輝いたのをジャックがはらはらした目で見ている。
「おい。ジェニファー」
「何?」
「そんな喜ぶことじゃないだろう?」
「え?でも」
「いいのよ。ジャック。これからはダフネになんでも聞くのよ」
「ダフネです。ジャック公子様、ジェニファー公女様よろしくお願いいたします」
ダフネは淡々と述べると、丁寧におじぎした。
「よ、よろしく」
「ねぇねぇダフネ。これからはダフネがわたしたちの勉強を決めるの?」
「いいえ。公女様。おふたりのスケジュールをお決めになるのはハンナ様にございます」
「そうなの?」
「ええ?ハンナおばさまが?」
「そうよ。これからはお勉強はお昼まで。お昼からは昨日みたいにいろいろな場所に行きましょう」
「「え?昨日みたいに?」」
ふたりの目が輝いた。
やっぱり、ああいうのがいいのよね。
小さい子には。
「では、今日はもうギャレット先生は帰られたからお昼ご飯を早めに食べて、またお庭の冒険に行きましょうか?」
「「はいっ!」」




