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ビアンカからの手紙

【ハンナ・バーディナへ

 これをあなたが読んでいるころにはわたしはもう死んでいることでしょう。

 詳しいことは言えないけれど、キングスフォード公爵家を出なければならなくなったの。

 わたしのことは探さないでね。

 

 わたしはあなたにとってはあまりいい姉ではなかったわね。勝手に王都に出て勝手に社交して勝手に結婚して勝手に子どもを産んで、そして一度も実家にも戻らなかった薄情な姉だった。

 ごめんなさい。許して。そしてどうか最後のお願いを聞いてほしいの。

 厚かましいことはわかってる。けれど、双子を引き取ってもらえないかしら?

 まだ五歳なのに母がいなくなってしまうのは子どもにとってつらいでしょう?父親の公子様は一度も子どもを顧みなかったような方だから子どもがどうなろうとどう思われることもないわ。だからあなたに育ててほしいのよ。

 

 本当に無理なお願いをしてごめんなさい。

 今になって思い出すのはあなたと小さい頃過ごした王都の屋敷の思い出よ。あの大きなかしの木を覚えていて?あそこによく登ってお母様に怒られたわよね。もう一度登ってみたかった。ハンナも一度双子を連れて行ってみてよ。きっと楽しいわよ。

 あ、公爵家にはわたしの馬がいるのよ。葦毛の女の子よ。一度会ってあげて。

 それでは。あまり時間がないからもう行くわね。

 ハンナは元気で長生きするのよ。

 ビアンカ・バーディナ】

 

そこまで読んで思った。

葦毛の牝馬?

もしかしてあの『ジェイ』という馬のことかしら?あの馬以外に葦毛はいなかったように思う。

あれがビアンカの馬だったということなのね。

まぁ確かにかわいかったわ。

明日また会いに行こうかしら……。


ハンナは手紙を元通り封筒にしまい、これはハンナのキャリーバッグの奥に元通りしまった。


「はぁ……」


そのまま椅子の背もたれにだらしなく背をつけるとため息をつく。


なんで死ななきゃならなかったのだろう。

この家は異常だ。

来てみて分かった。

使用人たちの無表情さ。

双子に対するフィーネの態度にそれを見て見ぬふりする使用人たち。

そしてウィルバートの双子への無関心。


ビアンカはこのような異常な家で五年間も暮らしていたのだ。

だが、死ぬほどのことならもっと前に相談してほしかった。

どうにかして呼び戻すこともできたかもしれないのに。


普通に考えたら結婚自体が異常だ。

皆がウィルバートと結婚していると思い込んでいたが、ビアンカはその父と結婚していたのだ。

しかもビアンカ自身もそのことを隠している。

どういうことなのだ。


奔放だったビアンカ。

王都にひとりで出て行ってからは手が付けられなくなり、両親は手を焼いていた。

そんな中降ってわいたような公爵家との縁談。

両親は問題児が片付いてくれたとばかりに喜んだ。


ビアンカと家族の関係性は決していいとは言い難く、結婚してからは両親もビアンカに会いに行くこともしなかったし、ビアンカも実家に寄り付くことはなかった。

けれどビアンカの死を知ったとき、両親は泣いた。

もっとビアンカと向き合っていればよかったと今更悔いていた。


それはハンナも同じ。

双子として生まれたのだ。

小さい頃はいつも一緒だったし、仲良しだった。

だけど、社交界にどっぷりはまってからのビアンカはハンナからは遠く離れた場所に行ってしまった気がして、近づけなかった。

ビアンカも拒否していた。ハンナが近づくことを望まなかった。

だけど今になって思えば会いに行けばよかった。

そしたらビアンカの死は防げたかもしれない。


「はぁ……」


もう一度ため息をつくと、もう訳が分からなくなってきたので、ハンナはドレスを脱ぎ着替えると、ベッドにダイブし朝まで深い眠りに落ちて行った。


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