双子の教育1
部屋を出るとハンナはまず階下に降り、フィーネを呼ぶよう使用人に言いつけた。
公爵家の一階のホール脇には小部屋が並んでいるので、その一室を使わせてもらうことにし、しばらくその部屋で待っていると、先程言いつけた使用人がやってきた。
「フィーネ様はジャック公子様とジェニファー公女様のお世話でお忙しいそうです。御用は夕方に承るとのこ……」
「公子と公女の世話は他の使用人に任せてここに連れてきなさい」
きつい口調で言うと、使用人は驚いたように顔を上げた。
「か、かしこまりました」
まったく。バカにしている。
無理やり押し掛けたとはいえ、ハンナは客人だ。しかもここの女主人だった公爵夫人の妹である。さらに伯爵令嬢であるため使用人にバカにされるいわれはない。
なのにこの態度は何なのだ。
それからもかなり待たされたが、小一時間経ってようやく、部屋の扉がコツコツとノックされた。
「どうぞ」
ぎーっと静かに開くと、そこにはフィーネが立っていた。
「遅くなり申し訳ございません」
顔はまったく悪びれていない。やはりバカにしている。
ハンナは自分が座っているソファの目の前のソファに座る様手で指図して座らせると口を開いた。
「ジャック公子とジェニファー公女は今何をしているの?」
「はい。ただいまマナーの授業を終えられ、今は国語の授業を受けておられます」
「今すぐふたりの一週間のカリキュラムを見せて頂戴。いらない教育はこれから先省いていきます。基本的には午後からは授業は行いません」
「それはどういうことでしょうか?おふたりの教育についてはわたくしが任されてお……」
「先の公爵閣下にでしょう?本日よりわたしがウィルバート閣下から教育係を任されました。これからは双子の教育に関してはわたしがすべて取り仕切ります」
ひらっと先程の一筆書きを取り出しフィーネの目の前に置くと一瞬彼女の目が見開いた。
「カリキュラム予定表を持ってきなさい。今すぐ」
「か、し……こまりました」
くぐもったような声を出し、彼女は出ていくと、またそれから再び現れるまでかなり長い時間を費やした。相変わらずの舐めようである。
「遅かったわね。予定表を一から作成でもしていたの?」
厭味ったらしく言ってやったが、口を引き結んだままよれよれの予定表を差し出してくる。
どうやら本当の予定表をきちんと持ってきたらしい。
概ねこの三日間でハンナが目で見て把握したものと同じだったからだ。
それにしてもびっしり予定が詰まっている。
子どもでなく大人でも気がおかしくなりそうなカリキュラムだ。
「あのおふたりはこの予定をこなさなければなりません」
じっとりとした目つきでハンナを見ながら言う。
「なぜ?」
「立派な公爵様になるためには勉強が必要です」
どうも目つきがおかしい。
据わっているいる様に見える。
「立派な公爵様になるためには勉強だけでなく遊ぶことも必要よ」
「それではいけないのです。もっともっと立派になって見返すのだと公爵閣下がおふたりに命じられているのです」
見返す?
どういう意味?
「先の公爵閣下でしょう?」
「先ではありません。あの方はずっと公爵閣下です」
何なの?
亡くなられた先の公爵閣下を心から崇拝しているような感じがする。
「あなたがそう思ったとしても、もうふたりの教育係はわたしよ。明日から午後の予定をすべてなくします。教師たちには連絡を。新しいカリキュラムを作成するので、それをもとに時間割を組みます」
「いけません!おふたりが……バカになってしまう。公爵閣下がお許しにならない。どうかおやめください。お許しを……」
そのうち泣き出してしまったので、ハンナは部屋の扉を開けて扉脇に控えていたソルディを呼び、彼女を部屋から連れ出してもらった。
これはもうふたりの侍女すら任せられない。
そんなにも先の公爵閣下はふたりに英才教育を受けさせようとしていたということ?
なぜ?
しかも見返すって何?
さっぱりわからない……。




