【番外編】エリナ試作記録
昨日は誤って下書き状態のものを投稿してしまい、失礼いたしました。
話のテンポのため本編では割愛していますが、製品開発に苦労しているエリナです。
干し林檎に塩を合わせたら、甘みが引き立つのではないか。
「我ながら、いい考えよね」
砂糖は高い。
使うとなると、どうしても量を気にしてしまう。
けれど塩なら、砂糖ほど高くはない。
うまく使えば、味を締められるかもしれない。
薄く切った林檎を乾かし、控えめに塩を振る。
それから、もう一度軽く乾かす。
表面に、ほんの少しだけ細かな粒が光っていた。
「見た目もいい……いけるかもしれない」
私は小さく呟き、ひと切れ摘まんだ。
ぱくり。
「…………」
ゆっくり味わう。
「うぁ……」
思わず、口元を押さえた。
「しょ……しょっぱい……」
林檎の甘さはある。
あるのだけれど、一瞬だった。
次の瞬間には、塩が押し寄せてくる。
甘みを引き立てるどころではない。
塩が主役になっている。
「か……かけすぎた……」
私は急いで水を飲んだ。
それでも舌の上に、塩気が残っている。
もう一切れを見下ろす。
「……こっちはどうかしら」
塩を控えめにした方だ。
これなら、きっと大丈夫。
ぱくり。
「……?」
噛む。
もう一度、噛む。
「……塩は? どこへ行ったの?」
今度は少なすぎた。
ただの、いつもの干し林檎だった。
「難しい……」
私は帳面に塩の量を書きつけた。
多すぎると、しょっぱい。
少なすぎると、何も変わらない。
では、その間ならどうか。
私は次の一切れを摘まむ。
ぱくり。
「……少し、近い?」
帳面に書く。
さらに次。
ぱくり。
「……違うわね」
また書く。
次。
ぱくり。
「う……」
私はようやく手を止めた。
全部が口の中で混ざって、よく分からなくなっている。
「……食べすぎた……苦しい……」
私は机に片手をつき、しばらく動けなかった。
「……品を作るって、難しい……」
それでも諦めきれず、私は翌日、作業に来てくれていた領民たちに相談してみた。
「干し林檎に塩を合わせたいのだけれど、どうにも加減が難しくて……」
そう言うと、年配の女性が「ああ」と頷いた。
女性は小皿に置いた干し林檎を一切れ取り、指先でごく軽く塩をつまんだ。
ぱらり。
「これくらいでどうです?」
私は少し警戒しながら、それを口に入れた。
ぱくり。
ゆっくり噛む。
「あ……」
林檎の甘みの後ろから、そっと輪郭をつけるような味だった。
「……おいしい」
思わず呟くと、周りにいた者たちも次々と手を伸ばした。
「お、いいじゃないですか」
「これ、茶菓子というより酒に合いそうだな」
「うちの旦那、好きそう」
「甘いだけより食べやすいですね」
「もう少し薄く切ったら、つまみによさそうだ」
わいわいと声が増えていく。
私はその輪の中で、しばらく干し林檎を見つめていた。
昨日、あれだけ悩んで。
帳面に何度も量を書きつけて。
食べすぎて苦しくなって。
それを、領民は指先ひとつで整えてしまった。
「……」
しばらく、塩気のあるものが嫌になった。




