【番外編】ブラン伯爵視点
ブラン伯爵VS宇宙人 ファイッ!
クレアは、よく言えば家族思いだ。
困っている者を見れば放っておけず、自分が間に入れば何とかなると思っている。
悪く言えば、お節介だ。
そして、そのお節介が、このたび盛大に問題を起こした。
「はぁ……」
向かいに座る男は、ひどく居心地が悪そうに視線を彷徨わせている。
いい年をした男が、行く先がないからと叔母の家を頼ってくる。それだけでも呆れるというのに、理由は娘に屋敷を追い出されたからだという。
私は先ほどから、一言も口を開いていなかった。
「……まさか、グラーフ伯爵があのような男だとは思いませんでした」
とうとう沈黙に耐えられなくなったのか、ローレンスが重々しく口を開いた。
「若いエリナをそそのかし、家族を屋敷から追い出すなど……」
隣に座るクレアが、深刻そうな顔で頷く。
「そうなのよ、あなた……そのせいで、エリナったら人が変わったように冷たくなってしまって」
「今は感情的になっているだけです。少し時間が経てば、あの子も考え直すでしょう――」
聞いているだけで頭が痛くなり、私は深く息を吐いた。
この期に及んで、まだ他人のせいにするのか。
昔から、この男が好きではなかった。
責任を負うことを嫌い、その場さえ収まればいいと考える。その結果、あとで何が起きるかまで考えようともしない。
ローレンスではなく弟が家督を継いだときも、私には当然の結果にしか見えなかった。
経営の傾いていたリュークハルト家へ婿入りしたのも、本人が望んで決めたことではない。
クレアの弟――ローレンスの父親に勧められるまま、前当主の娘であるフリージアと結婚したにすぎなかった。
フリージアは、よくできた女性だった。
領地を立て直すだけの力を持ちながら、夫となったローレンスの顔を潰さぬよう、人前では必ず彼を立てていた。
それが仇になったのだろう。
周囲から当主のように扱われるうちに、いつしか本人まで自分が当主なのだと思い込んでしまった。
まさか、正式に継いでもいない家の当主を名乗り、領地を担保に借金までしようとしていたとは。
そこまでとは、私も知らなかった。
私はようやく、ローレンスへ正面から顔を向けた。
「法院の判断では、借金の返済義務はお前に残ったはずだな」
「ええ。ただ、クレア叔母上も保証人として責任を負うと――」
「それで?」
ローレンスが口を閉じる。
「お前自身は、どう返すつもりだ。当然、返すつもりはあるのだろう?」
「それについては、エリナと話し合うつもりです。領地からは収入があります。それに、エリナが始めた事業も軌道に乗っている。今後さらに――」
「自分で返そうとは思わんのか」
ローレンスは、不思議そうに眉を寄せた。
「家族なら、助け合うものでしょう。私が困っているのに、娘が利益を抱え込む方がおかしい」
「保証人を引き受けるときには家族へ相談せず、返す段になれば家族の責任か」
ローレンスの顔が強張った。
都合の悪いことを指摘されれば黙り込み、相手が折れるのを待つ。
昔から変わらない。
クレアが、取りなすように身を乗り出した。
「あなた、ローレンスも追い詰められていたのよ。フリージア様にも頼れなくなって――」
「クレア。お前にも聞く。なぜ、私へ何の相談もなく保証人になった」
クレアが目を伏せる。
「だって、ローレンスが困っていたから……大切な甥ですもの……」
まだ、かわいい甥のつもりなのか。
目の前にいるのは、すでに子どもまでいる立派な年齢の男だ。
私はローレンスへ視線を戻した。
「――ローレンス。エリナ嬢に近づくことは許さん」
ローレンスが顔を上げた。
「なぜ、あなたにそのようなことを決められなければならないのです」
「私の妻を、お前の借金の保証人に巻き込んだ身で何を言う」
ローレンスは眉を寄せた。
「叔母上は、ご自分の意思で引き受けてくださったのです。私が無理に頼んだわけではありません」
「そうか。娘には家族なのだから返済を手伝えと言いながら、夫である私には、妻が背負った返済へ口を出すなと言うのか」
「それとこれとは――」
「何が違う」
ローレンスは口を閉ざした。
「グラーフ伯爵家にも、リュークハルト家にも勝手に出向くな。手紙を送ることも許さん」
私は立ち上がり、控えていた執事へ顔を向けた。
「領内で、住み込みの働き口を手配しろ。明日から働かせる」
「かしこまりました」
「待ってください」
ローレンスが慌てて声を上げた。
「クレア叔母上の私財を返済へ回すのでしょう? それなら、私は――」
「……お前は、本気でそれを言っているのか」
思わず、まじまじと顔を見た。
ローレンスもまた、意味が分からないという顔でこちらを見ている。
私にも意味が分からなかった。
ただ、これだけは言えた。
「恥を知れ」
ローレンスの肩が、びくりと揺れた。
そのとき、扉が叩かれた。
「旦那様、オルブライト子爵家の馬車が到着しております。レオン様とリディア様がお見えでございます」
「何だと?」
私はゆっくりと妻へ顔を向けた。
クレアは、困ったように私を見返している。
私は眉間を押さえた。
「……通せ」




