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【完結】都合のいい私を、辞めることにしました【番外編あり】  作者: 福嶋莉佳@集英社WEB小説大賞金賞
二十三章

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第3話

あれから、三か月が過ぎた。


最後にエドウィン様から手紙が届いたのは、いつだっただろう。


「オルブライト子爵家から、何か届いていない?」


廊下を通りかかった侍女へ尋ねる。


「いいえ。本日は何も届いておりません」


「……そう」


ここへ来たばかりの頃は、エドウィン様から返事が届いていた。毎日のように交わしていたわけではない。それでも、私が手紙を送れば、しばらくして必ず返事が来た。


最初は、私の身体を気遣う言葉が書かれていた。次に届いた手紙は、それよりも短かった。そして最後に届いた手紙には、家政の勉強を続けるようにとだけ書かれていた。


それから、もう一月近く何も届いていない。


きっと、オルブライト子爵ご夫妻が止めているのだ。私の手紙を、エドウィン様へ渡していないのかもしれない。


そうでなければ、エドウィン様が私を放っておくはずがない。


小さく息を吐き、女中頭のいる部屋へ向かう。


私だって、十分に努力している。


食料庫の在庫を調べられるようになった。衣類や銀器の管理も覚えた。支出額を前の月と比較することもできる。最近では、女中頭から注意される回数も減っていた。


もう、何も知らなかった頃の私ではない。


女中頭の部屋の扉へ手をかけたとき、ふと自分の手が目に入った。


最初の頃に赤く腫れていた箇所は、もう治っている。代わりに、指先の皮膚が少し硬くなっていた。ペンを持つ指にも、薄い硬い部分ができている。


以前、エドウィン様は私の指を、白くてしなやかで美しいと褒めてくださったのに。


私は指を隠すように、手を握った。


もう十分だ。


これ以上、使用人と同じ仕事を続ける必要はない。


「一通りのことは覚えました。そろそろ実習を終えてもよいのではありませんか」


女中頭へそう訴えたが、返ってきたのは、今後も続けるようにという言葉だった。


「実習を終える時期をお決めになるのは、リディア様ではございません」


「ですが、私はもう――」


「旦那様から、終了のご指示はいただいておりません」


それ以上、取り合ってもらえなかった。


部屋を出ると、ちょうど廊下の向こうから、ブラン伯爵家の嫡男が歩いてくるのが見えた。


父の従兄弟にあたる人だった。


領内の鉱山や農園を視察したあと、そのまま王都へ向かっていたため、屋敷へ戻るのは数か月ぶりらしい。濃紺の上着には、光の加減で模様が浮かぶ新しい織物が使われている。王都で流行しているものだろう。


親しく話したことはほとんどない。


けれど、同じ年頃の貴族であれば、今の私の扱いが不当だと分かってくれるかもしれない。


私は歩調を速めた。


「少し、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」


彼の前で立ち止まり、笑みを浮かべる。慌てているようには見えないよう、胸の前で両手を重ねた。


「何?」


「大叔父様へ、お話しいただきたいことがあるのです」


「父上に? 何をかな」


「大叔母様のもとで学ばせていただいていることには、感謝しております。けれど……今のような仕事を、いつまでも続ける必要があるのでしょうか」


彼は何も答えなかった。


「もちろん、家政を学ぶ必要があることは理解しております」


私は慎ましげに目を伏せる。


「ですが婚姻後、私は子爵家の夫人となります。社交や来客への応対など、ほかに学ぶべきこともあると思うのです」


「そう」


「ですから、あなたから大叔父様へ、もう十分ではないかとお話しいただけないでしょうか」


微笑みながら、小さく首を傾げる。


彼はしばらく私を見たあと、あっさりと答えた。


「いいよ」


顔が明るくなる。


「本当ですか?」


「仕事をやめさせるよう、父上に話してもいい」


「ありがとうございます」


「それで、いつこの屋敷を出ていくの?」


「……え?」


笑みを浮かべたまま、彼を見る。


「仕事をしない者を、ここへ置いておく理由はないだろう」


「私は……この屋敷を出たいと申し上げているのではありません」


「でも、働きたくないんだろう?」


「そうではなくて、私にはもっと向いている役目があるのではないかと――」


「あのさ」


言葉を遮られた。


「君は、自分がオルブライト家にとって、いつまでも待つだけの価値があると思っているの?」


「……どういう意味ですか?」


「顔立ちがよくて、愛想がよくて、家格も釣り合う令嬢なら、ほかにもいる」


「何を……おっしゃりたいのですか」


「家政も、ある程度ならほかの令嬢にもできる。それ以外に、君には何があるの?」


指先へ、鈍い痛みが戻ったような気がした。


「エドウィン様は、私を愛してくださっています」


「それは、君を妻にしなければならない理由にはならないよ」


「そんなことは……」


「まあ、私はオルブライト子爵夫妻ではないから、実際にどう考えているかは知らないけれどね」


彼は女中頭の部屋へ視線を向けた。


「仕事を続けるか、屋敷を出るか。好きな方を選べばいい」


この屋敷を出ても、行く場所などない。父と兄のいる鉱山へ行くなど、考えたくもなかった。


それに、いつエドウィン様から連絡が来るかも分からない。私がここを出てしまえば、手紙が届いても受け取れなくなるかもしれない。


「……実習へ戻ります」


「なら、そうすればいい」


彼は私の横を通り過ぎた。


「私なりに……学んでいるつもりです」


思わず、その背中へ声をかける。


彼が振り返った。


「なら、そのうち結果が出るんじゃない?」


それだけ答え、今度こそ立ち去っていく。


私は一人、廊下へ取り残された。


強く握った手の中で、硬くなった指先が手のひらへ食い込んでいた。


その月も、エドウィン様からの手紙は届かなかった。

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― 新着の感想 ―
放置もだいぶエグいけどな。ダメならダメで話し合えや。EDWINかなんか知らんが。
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