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【完結】都合のいい私を、辞めることにしました【番外編あり】  作者: 福嶋莉佳@集英社WEB小説大賞金賞
三章

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第2話

「……ご馳走様でした」


気づけば、なんだかんだとパンをおかわりしてしまっていた。


そっと顔を上げると、向かいではアーネストがコーヒーを口にしている。


――どうして、こんなに親切なんだろう。


ヴァルクレイン夫人もそうだった。会の主催者になると、皆こういうものなのだろうか。


「会の客が休めるようにするのは、主催の役目だ」


視線を落としたまま、アーネストが淡々と言った。


「あ……そうなのですね」


「体調を崩したまま帰す理由はない」


……主催者側の仕事って、大変なんだ。


「……あの……」


少し迷ってから、口を開いた。


「どうして……私を、招待したんですか」


アーネストがコーヒーカップを置く。


昨夜の会を思い出す。参加していたのは、爵位の後継者や商会を率いる者ばかりだった。


私だけ、場違いだったのではないか。


そんな考えが頭に浮かぶ。


アーネストは少し間を置いてから答えた。


「領地や商会を持つ者は、すでに自分の立場を理解している」


視線がこちらへ向く。


「だが君は、まだ肩書きに縛られていない。会で何を見るか、どう聞くか、どう判断するか。それを自分の頭で考える余地がある」


私は言葉を失ったまま、ただ瞬きをした。


「前回の会で分かったが、君は話を聞く姿勢を崩さない。そういう人間は、場に置いておく価値がある。主催としては、招く理由として十分だ」


「……」


私はしばらく黙ったまま、テーブルへ視線を落としていた。


アーネストもそれ以上は何も言わず、またコーヒーを口にする。


「……今日の予定は?」


不意にそう聞かれ、顔を上げた。


「え……? ……特に、ありません」


「なら、付き合え」


「……?」


「領地の視察に出る。半日ほどだ」


「……私が、ですか?」


アーネストは立ち上がりながら言った。


「他に用がないのだろう。見ておいて損はない」


私は一瞬迷ってから、小さく息を吐いた。


「……分かりました」


そう答えると、アーネストはそれ以上何も言わず、扉へ向かう。


「準備ができたら、来い」


背中越しにそれだけ残し、食堂を出ていった。


◆


屋敷の前には、すでに馬車が用意されていた。


アーネストが当然のように手を差し出す。


「あ……ありがとうございます」


少し緊張しながら、その手を借りて馬車へ乗り込んだ。


扉が閉まり、馬車が走り出す。向かいの席では、アーネストがすでに書類に目を通していた。


「あの……どちらへ向かわれるのですか?」


問いかけると、紙面へ視線を落としたまま答えが返ってくる。


「川沿いの市だ」


「……市、ですか?」


思わず目を見開いた。


「市に行くのは……小さい頃に行ったきりなんです……」


貴族令嬢として、外を歩くことも、領地の視察に関わることも、私の役目ではないとされてきた。


アーネストが書類から顔を上げる。


「そうか」


それだけ言って、少し間を置いた。


「なら、ちょうどいい」


「?」


「自分の領地しか知らないのは、悪いことではない。だが、他を知らなければ比べることもできない」


アーネストは窓の外へ視線を向け、それから再び私を見る。


「今日は見るだけでいい。気になったことだけ覚えておけ」


「……はい」


馬車の揺れに身を預けながら、私は窓の外へ目を向けた。


会へ来たのは夜だったから、周りの景色まではよく分からなかった。今は、はっきりと見える。


道を行き交う人の数が、思っていたよりも多い。荷車が次々と行き交い、荷を背負った行商人らしき姿も目に入る。


遠くに広がる畑も、馬車の中から分かるほど区画が揃い、作物の列がまっすぐ伸びていた。


「……すごい……」


うちの畑は、ここまで揃っていなかった。区画は歪で、水路も年ごとに補修を重ねている。


……どうして、こんなに違うのかしら。


手を入れる順番?


それとも、最初から作り方が違うの?


私は窓の外から目を離せなくなった。


向かいで書類を読んでいたアーネストが、一瞬だけこちらを見る。それから何も言わず、紙面へ視線を戻した。


やがて、景色の先に陽の光を反射する水面が見えてきた。


川だ。


幅の広い川が、陽を受けながら流れている。馬車は、その川へ向かって進んでいった。

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― 新着の感想 ―
昨夜は来たなり泣いて寝てなんのお話もしてませんが? そして貴族令嬢が親の留守に無断外泊になったのを気にしてないのどうなんですか
 エンタメ優先の式典ではないとはいえ、アーネストさん、趣味道楽や世間話などの雑談を話しませんね。相手の姿勢や見聞の度合いの全否定もしませんし、時には聞くときの振る舞い等を褒める事もありますけど。  …
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