第6話
後ろに控えていた若い男たちが進み出て、卓の上へ次々と箱を並べていった。
大小さまざまな箱が、あっという間に卓の半分を埋める。
「こんなに……」
「お相手がお三方と伺っておりますので、少し多めにお持ちいたしました」
若い男たちが、一つずつ丁寧に蓋を開けていく。
卓の上には、銀細工の酒杯や革張りの手帳、細身の懐中時計、装飾を施した筆記具、色とりどりの石を使った髪飾りや胸飾りまで、さまざまな品が並べられていった。
「……どれも上等な品ですよね……」
思わず、おそるおそる尋ねる。
「もちろんでございます。こちらの酒杯は、北方の工房で作られたものでございます。酒を嗜まれる男性への贈り物として、よく選ばれております。隣の懐中時計は、王都の時計職人によるもので、蓋の部分へ紋章やお名前を彫ることも可能でございます」
「なるほど……」
私は頷きながら、オスカーの説明を聞いていく。
予算は、思い切って多めに伝えてある。あの書付に記されていた額を見たあとでは、このくらいなら問題ない……はずだ。
それでも。
「うーん……」
どれも素敵だと思う。
義父なら、酒杯も懐中時計も使ってくださるだろうし、義母なら、髪飾りも胸飾りも似合うに違いない。でも、たぶん、どれもすでに持っていらっしゃる。
もちろん、まったく同じ品を持っているわけではないだろうし、贈り物なのだから、それでも構わないとは思う。
せっかくなら、何か、私から贈る意味のあるものにしたい。
卓の上に並ぶ品々を眺めながら考えていると、ふと、食事の席で並んで座る二人の姿が浮かんだ。
「……そうだ」
「何か思いつかれましたか?」
「お二人で、揃いになるようなものはありませんか?」
「揃いの酒杯などでしょうか?」
「ええと、まったく同じものではなくて……」
私は口元へ手を添え、言葉を探す。
「例えば、同じ宝石を使っているとか、同じ模様が入っているとか。お二人がそれぞれ身につけられるもので、並んだときに少しだけお揃いだと分かるようなものがあれば……」
オスカーが、少し考えるように目を細めた。
「ああ。それでしたら、ちょうどよいものがございます」
そう言って、後ろに控えていた男へ目配せする。男は並べていた箱の中から、細長い箱を一つ取り出した。
オスカーがそれを受け取り、私の前へ置く。
蓋が開かれた。
「わあ……」
中に収められていたのは、二つの装身具だった。
一つは、男性がクラバットへ留めるための細身の飾り。もう一つは、女性用の小さな胸飾り。
形は違うけれど、どちらにも同じ淡い青緑色の石が使われている。銀細工には、細い蔓草の模様が彫られていた。
「こちらは、同じ原石から切り出した石を使い、夫婦一対として仕立てられた品でございます」
「ああ、素敵……まさに、こういうものです……!」
思わず身を乗り出す。
「お二人にも、よくお似合いになると思います」
リリアも、隣で嬉しそうに頷いた。
私は、二つの装身具をもう一度見つめる。銀細工なら、いろいろな色の衣装にも合わせやすそうだ。
義父のクラバットに留められた青緑色の石。その隣に立つ義母の胸元にも、同じ色の石が光っている。
二人が並んでいる姿を想像すると、自然と笑みがこぼれた。
「……お義父様とお義母様には、これにします」
「かしこまりました」
オスカーが深く頷いた。
二人分が決まった。残るのは――。
「……あとは、アーネスト様ね」
私は、まだ卓の上に並んでいる品々へ視線を戻した。
アーネストは、私のために指輪を選んでくれた。だから私も、できれば身につけてもらえるものを贈りたい。
「けれど……どうしよう」
あの方は、必要のないものをあまり持たない。装飾品も、華やかなものを好んでいるようには見えない。
だからといって、仕事で使う手帳や筆記具では、少し味気ない気もする。せっかくなら、できるだけ毎日身につけてもらえるものがいい。
私は、卓の上に置かれた懐中時計へ目を向けた。
懐中時計。
でも、アーネストはすでに自分のものを持っている。
それなら――。
「時計ではなくて……懐中時計につける鎖だけ、見せていただくことはできますか?」
「もちろんでございます」
オスカーが頷き、後ろに控えていた男へ声をかける。
ほどなくして、別の細長い箱がいくつか卓へ並べられた。蓋を開けると、銀や金で作られた鎖が収められている。編み方も太さも、それぞれ少しずつ違っていた。
中には、小さな飾り石や紋章をつけられるものもある。
「こちらでしたら、現在お使いの時計へ付け替えていただけます」
「それなら、いいかも……」
アーネストは、すでに気に入った時計を持っている。それをわざわざ新しいものへ替えてもらう必要はない。
鎖なら、私が贈ったものを、今使っている時計と一緒に使ってもらえるかもしれない。
一つずつ見ていると、細身の銀の鎖が目に留まった。ほかのものと比べて飾りはほとんどないが、留め具のそばに、小さな石を一つだけ嵌められるようになっている。
「ここに、石を入れることもできるんですか?」
「はい。お好みの石をお選びいただけます」
「でしたら……淡い緑色の石はありますか? 若葉みたいな、やわらかい色のものがいいです」
「淡い緑でございますね。いくつかございますので、お持ちいたしましょう」
オスカーが男へ声をかける。
ほどなくして、小さな石がいくつか運ばれてきた。
濃い緑に、青みを帯びた緑。少し黄色の混じった緑――。
私は一つずつ見比べていく。
そして。
「……これ」
その中の一つへ、指を伸ばした。
淡く、やわらかな緑色。アーネストから贈られた指輪の石によく似ている。
「これがいいです……お揃いになっちゃうけど」
自分で言ってしまい、頬が熱くなる。
隣を見ると、リリアがにこにこと笑っていた。
「な、何?」
「いいえ。何も」
「恥ずかしがられるかな……」
「いいえ。とてもお喜びになられると思います」
「……そう」
余計に恥ずかしくなって、私はもう一度、銀の鎖へ目を落とした。
「……でも、これくらいなら、さりげなくていいよね」
それくらいが、アーネストにはちょうどいい気がする。
オスカーも頷いた。
「数日ほどいただけましたら、こちらの石をお留めして、お届けいたします」
「では、それでお願いします」
「かしこまりました」
これで、三人への贈り物が決まった。
私は卓の上に並んだ品を眺め、満足して頷いた。
あとは、三人に気づかれずに受け取るだけだ。




