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【完結】都合のいい私を、辞めることにしました【番外編あり】  作者: 福嶋莉佳@受賞・書籍化進行中
二十一章

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第7話

「旦那様、オルブライト子爵家の馬車が到着しております。レオン様とリディア様がお見えでございます」


「何だと?」


ブラン伯爵が、ゆっくりとクレア叔母上へ顔を向ける。


叔母上は困ったように夫を見返した。


伯爵は眉間を押さえ、深く息を吐いた。


「……通せ」


ほどなくして、応接室の扉が開いた。


先に入ってきたのは、レオンだった。


髪は乱れ、上着には皺が寄っている。襟元も汚れ、とても貴族の令息とは思えないほど、ひどい身なりになっていた。


その後ろから入ってきたリディアも、顔色がよくない。


オルブライト子爵家の馬車で戻されたということは、あちらでも何か問題を起こしたのだろう。


まったく、こんなときに何をしているのだ。


「レオン、リディア。どうして二人ともここへ……」


私が尋ねるより早く、レオンが吐き捨てた。


「屋敷が改築されていたんだよ」


「改築?」


「茶房にするらしい。俺たちが暮らしていた屋敷をだぞ!」


耳を疑った。


「私の屋敷を、茶房に?」


「父上の屋敷じゃないだろう」


レオンが苛立たしげに言い返した。


「何だと?」


「法院で決まったじゃないか。父上は当主でも領主でもなかった」


胸の奥が大きく揺れた。


息子にまで、そのようなことを言われるとは思っていなかった。


「誰に向かって、その口を利いている!」


「借金を作っておきながら、領主のつもりでいた男に、どんな敬意を払えというんだ!」


「二人とも、いい加減にしろ」


ブラン伯爵の低い声が響いた。


「大叔父上。こいつのせいで、俺まで家を失ったんです」


「お前の事情も聞く。まず座れ」


命じられ、レオンは不満そうに長椅子へ腰を下ろした。


リディアは何も言わず、クレア叔母上の隣に座る。


「俺は、家督を取り戻す」


レオンが身を乗り出した。


「新しい代理人を雇い、もう一度法院へ申し立てるつもりだ」


その言葉に、胸の内が明るくなった。


やはり、レオンも同じことを考えていたのだ。


「大叔父上。代理人を雇う費用を貸していただきたい。家督を取り戻せば、必ず返します」


「私からもお願いします」


すぐに続けた。


「レオンが家督を取り戻せば、借金の返済にもめどが立ちます。すべて、元の形へ――」


ブラン伯爵は、私の言葉を最後まで聞かなかった。


「お前に家督を争うための金は貸さん」


レオンが勢いよく立ち上がった。


「なぜです! 取り戻せば、大叔父上にとっても悪い話ではないでしょう!」


「すでに法院が判断したことだ。それ以前に、お前は母親の遺言で後継者に指定されてすらいない」


「あの裁判は、最初から条件が違っていたんです! グラーフ家は腕の立つ代理人を立て、こちらにはまともな代理人すらいなかった! でなければ、これまで後継者として務めてきた実績を、あそこまで無視されるはずがないでしょう!」


ブラン伯爵はレオンへ答えず、私を見た。


「……お前も同じか」


それから、しばらく私とレオンを見比べたあと、控えていた執事へ顔を向ける。


「二人まとめて働かせられる場所はあるか」


「領内の鉱山で、ちょうど住み込みの人手を求めております」


「明朝にでも送り届けられるか?」


「もちろんでございます」


「待ってください!」


ブラン伯爵が視線を送ると、部屋の外に控えていた二人の男が入ってきた。


一人が私の腕を取り、もう一人がレオンを押さえる。


「何をする! 離しなさい!」


「離せ! 俺はリュークハルト家の嫡男だぞ!」


レオンがクレア叔母上へ顔を向けた。


「大叔母上! 何とか言ってください!」


私も続ける。


「クレア叔母上! 私はあなたの甥ですよ!」


叔母上は、困ったように私を見た。


いつものように、夫を説得してくださるはずだ。


そう思ったのに、その唇はなかなか開かなかった。


「クレア叔母上!」


叔母上は膝の上で両手を握りしめたまま、目を伏せた。


「……ごめんなさい、ローレンス」


「叔母上?」


それ以上、叔母上は何も言わなかった。


「今夜は使用人棟の空き部屋へ入れろ。明日の朝、鉱山へ送る」


「かしこまりました」


警備の男たちが、私とレオンを扉の方へ促す。


「待て! 私はまだ話を――」


「離せ! 俺は大叔父上へ金を借りに来ただけだ!」


私たちは、そのまま応接室から連れ出された。


「父上! 何とかしろ!」


「私に言うな! お前が余計なことを言うからだろう!」


「また俺のせいにするのか!」


背後から、ブラン伯爵の声が響く。


「静かにさせろ」


腕をつかむ力が強くなった。


私はもう一度、クレア叔母上を振り返った。


叔母上は長椅子に座ったまま、こちらを見ようともしなかった。


ほんのしばらく身を寄せれば、すべて元に戻る。


そう思っていた。


それなのに、なぜ私が、明日から鉱山で働くことになっているのだ。

まさかの鉱山行きに草と思われた方、感想お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
後継者としての実績って一体何があるんだろう・・・?
親子揃って…。プライドだけが高いクズはどうしようもないな。他責思考が酷すぎる。
苛烈な後継者争いになる前にエリナの圧勝で後継者は確定しました。江戸時代のたとえ無能でも長男が惣領となり総取りの制度は争いを防ぐためにあったという話を思い出しました。それと大阪の商家では娘に有能な婿をと…
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