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【完結】都合のいい私を、辞めることにしました【番外編あり】  作者: 福嶋莉佳
十七章

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第7話

連投……( ゜д゜)・:∴ゴフッ!!

どれくらい、そうしていたのだろう。


胸の奥で絡まっていたものが、少しずつほどけていく。


苦しくて、息をするだけで痛かった場所に、ゆっくりと温かなものが満ちていった。


アーネストの腕は、ずっと私を支えてくれていた。


安心する。


少しずつ息が落ち着いてくると、今度は別のことに気づいてしまう。


私は今、グラーフ伯爵に抱きしめられている。

しかも、自分から上着を掴んでいる。


「……っ」


急に頬が熱くなった。手を離そうとしたのに、指先が思うように動かない。


離さなければいけない。そう思うのに、まだ離したくない。


もう少しだけ。

あと少しだけ、このままでいたい。


そんなことを思ってしまった自分に、さらに顔が熱くなる。


「エリナ」


耳元で名前を呼ばれ、肩が小さく跳ねた。


「落ち着いたか」


「はい……」


そう答えると、アーネストの腕に、わずかに力がこもった。


それだけで、また胸が詰まりそうになる。


その時、扉の外からノックの音がした。


私はびくりと体を強張らせた。


アーネストの腕が、すぐに緩む。完全に離れる前に、私が倒れないよう、そっと肩を支えてくれた。


「入ってもよろしいかしら」


グラーフ伯爵夫人の声だった。


私は慌てて、アーネストの上着から手を離した。


「は、はい……!」


返事が少し裏返る。


アーネストが、小さく息を吐いた気がした。


扉が開き、グラーフ伯爵夫人が姿を見せる。


夫人は私とアーネストを見て、一瞬だけ目を細めた。


何も言わず、いつもの穏やかな顔でこちらへ歩み寄る。


「医師がいらっしゃったわ。足を診ていただきましょう」


「……ご迷惑をおかけして、申し訳ございません」


「それは後で聞きます。今は、謝るより先に手当てを受けなさい」


その言葉に、また胸の奥が熱くなった。


アーネストは、私のすぐ隣に立った。


「診察が終わるまで、外にいる。何かあれば、すぐ呼べ」


そう言って、彼は扉の方へ向かう。


伯爵夫人が、アーネストを見て小さく息を吐いた。


「心配なのは分かるけれど、扉の前で番をしていなくてもよろしいのよ」


「……ああ」


アーネストはそれ以上何も言わず、部屋を出ていった。


医師の診察では、大きな怪我はないと言われた。


ただ、踵は擦れて赤くなっており、足裏にもかなり負担がかかっているらしい。


今日はもう歩かず、できるだけ安静にするように、と告げられた。


医師が下がると、ほどなくしてアーネストが戻ってきた。入ってくるなり、彼の視線は私の足元へ向かう。


「どうだった」


夫人はその様子を見て、少しだけ含むように笑った。


「大きなお怪我ではないそうよ。ただし、今日は歩かせない方がよいとのことです」


「当然だ」


アーネストの眉間には、深い皺が寄っていた。


夫人はその顔を見て、少しだけ困ったように笑うと、私の隣へ腰を下ろした。


「エリナさん。何があったのか、話せる範囲でよろしいから聞かせてちょうだい」


「……はい」


私は膝の上で手を握りしめた。


茶会を終えて屋敷へ戻った後のことを、ぽつりぽつりと話した。


私の知らないところで、縁談の話が進められていたこと。


持参金はいらない、嫁いだ後も乾燥果物の事業に関われる、家のためにも姉の縁談のためにも悪くない話だと言われたこと。


話しながら、自分の声が少しずつ小さくなっていくのが分かった。


アーネストも伯爵夫人も、途中で遮らなかった。


私が話し終えると、部屋の中に沈黙が落ちた。


夫人は深く息を吐いた。


「ノルトハイム子爵……あの方、まだ若い後妻をお探しなのね」


「ご存じなのですか?」


「名前くらいは。社交の場で、そういう話は耳に入るものよ」


アーネストの眉間の皺が、さらに深くなる。


「帰ってきたばかりのエリナを、休ませもせず客間へ呼んだのか」


「アーネスト」


「……ああ」


「リュークハルト男爵も、ずいぶん急ぐのね」


「ですから私は……」


言葉が喉でつかえる。


「もう……家にいたら、また振り回されると思って……出てきてしまって……」


そこまで言うと、また視界がにじみそうになった。


慌てて俯く。


「申し訳ございません。だからといって、このように押しかけてよい理由には……」


「エリナ」


アーネストの声が、私の言葉を止めた。


「もう帰らなくていい」


「え……」


「そうね。その足で帰すわけにはいかないわ。リュークハルト家へは、わたくしから連絡しておきます」


「ですが……」


「今夜は、わたくしの客として泊まりなさい。よろしいわね」


アーネストが口を開きかけたところで、夫人が先に言った。


「あなたの客として泊めるわけにはいかないでしょう」


「……母上」


「心配なのは分かります。けれど、ここであなたが急げば、エリナさんの立場を悪くするだけです」


アーネストは何か言い返そうとして、結局口を閉じた。


「なら、リュークハルト家への文は――」


「わたくしが書きます。あなたが書くと、喧嘩になりそうだもの」


アーネストは否定しなかった。


「それから、アーネスト。エリナさんを休ませてあげなさい。話は、それからです」


「……承知している」


「本当に? そんな顔には見えないわね」


そう言って、伯爵夫人は立ち上がった。


「すぐに部屋を用意させるわ。少しだけ、ここで待っていなさい」


夫人はそう言い残し、部屋を出ていった。


扉が閉まると、客間には私とアーネストだけが残された。


先ほどまで人の出入りがあったせいか、急に部屋の中が静かになる。


「すまなかった」


「え……?」


「嫌な思いをさせた」


「グラーフ伯爵のせいではありません」


そう言うと、アーネストは首を振った。


「俺は、君に選んでほしかった」


「私に……何を、ですか」


「君自身に、俺を選んでほしかった」


私は目を瞬かせた。


「君は、誰かの都合に合わせることに慣れすぎている。俺が先に手を伸ばせば、君は断りにくくなる」


アーネストは、少しだけ息を吐いた。


「助けられたから。世話になったから。借りがあるから。そんな理由で頷かせたくはなかった」


「グラーフ伯爵……」

 

この方は、待っていてくれたのだ。


私が一人で立てるまで。

私が、自分で選べるようになるまで。


そうなる保証なんて、どこにもなかったはずなのに。


それでも、私のことを信じてくれた。


――私が、彼を選ばないかもしれないことまで分かったうえで。


アーネストは、私の前で膝をついた。


「エリナ。今から言うことも、縛るためのものではない。選ぶのは君だ」


時間が止まったようだった。


アーネストは、まっすぐに私を見ていた。


「俺と、結婚してほしい」


頭の中が真っ白になった。


ずっと夢見ていた。

ここ最近、何度も想像してしまった。


実際にこうして膝をつかれ、まっすぐに告げられると、胸がいっぱいになって、何も考えられなくなる。


「返事は急がなくていい。だが、俺の気持ちは変わらない」


「い、いえ!」


慌てて声が出た。


アーネストが、少し目を見開く。


「ち、違うんです。嫌だという意味ではなくて……」


うまく言葉が出てこない。


胸が苦しい。

ただ、それはさっきまでの苦しさとは違っていた。


「胸が……どきどきしていて……一瞬、何も考えられなくて……でも、すごく、嬉しくて……」


言いながら、顔が熱くなっていく。


「でも、私……家出娘ですよ……?」


「知っている」


アーネストの表情が、和らいだ。


「知っていて、言っている」


アーネストが、そっと私の手を取る。


「今の言葉を、返事として受け取っていいのか」


涙が出そうになるのを堪えて、私は小さく微笑んだ。


「はい」


それでも、堪えきれなかった涙がこぼれた。


「私は、あなたと結婚したいです」

アーネストへたまには暖かなコメントお待ちしております(笑)

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― 新着の感想 ―
歓喜
「ノルトハイム子爵……あの方、まだ若い後妻をお探しなのね」 もうこれだけでお察し案件なわけで。コブ付き再婚の中年に嫁ぎたい令嬢がいるわけがない。誰にも相手にされないから貧乏男爵家の搾取子に目を付けた…
( ゜∀゜)・∵. グハッ!!` 何度読んでも…感動する… もう二人の周りに薔薇が咲き乱れて、発光してる…><眩しいぃ…。 エリナ可愛すぎるーー!っそして、最後にはっきり言えた!吐血
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